−なぜ今、思い出すのだろう?
若く、それゆえ傲慢だった同級生・相沢里奈の、目を声を、ぬくもりを。
あの頃の僕らは未完成で、足りない何かを探しては傷つき、欲することに夢中だった。
だから気づかずにいたんだ。ずっとそばにあった、かけがえのないものに。
持ち前の器用さと明るい性格で、比較的イージーに人生の駒を進めていく一条廉。
しかし東京は、平穏な幸せを簡単に許してくれない。
運命の悪戯が、二人の男女の人生を交差させる。これは、“男サイド”を描いたストーリー。
「恋と友情のあいだで~廉 Ver.~」一挙に全話おさらい!
第1話:好みじゃない、だけど気になる。ただの同級生が“女”に見えた夜
はっきり言って、里奈は僕のタイプじゃない。入学してすぐ彼女の顔と名を覚えたのは、語学のクラスが一緒で、しかも出席番号まで前後という縁があったからだ。
「一条廉くん、だよね?」
里奈と初めて言葉を交わした時のことは、なぜだか鮮明に覚えている。
あれは、学内でも華やかな男女が集まるゴルフサークルの新歓コンパだった。
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第2話:「好きだよ、可愛い」。ベッドでの常套句を駆使し、モテ期を堪能する商社マンの秘めたる思い
同期の集まりでも早々にリーダー役を務めるようになり、入社して1年が経とうという頃には、同じ部門はもちろんのこと、他部門でも広く“一条廉”の名は知られるようになっていた。
しかしそれにはちゃんと理由がある。僕は公私ともに、めちゃくちゃ付き合いがいいのだ。
「もちろんっす。っていうか聞いてください。俺、この前すっげー可愛いグラドルの子と知り合ったんすよ。友達紹介してって頼んであるんで、決まったら必ず藤井さんのこと誘いますから」
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第3話:ハマると抜け出せない蟻地獄。プレイボーイの商社マンを本気にさせた、年上女の魔力
出先から戻る途中、仲通りの『GARB東京』で里奈を見かけた。
ちょうどランチタイムで店内は混雑していたが、僕の目は窓際にひとりポツンと座る彼女の姿をすぐに捉える。
実際、里奈には別格の華やかさがあって、通りを歩く男という男は皆ウィンドウ越しの美女に視線を送っているのだった。
頭で考えるより先に足が動き、僕は吸い込まれるように彼女の元へと向かった。
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第4話:「君だけは、抱けなかった」。女慣れした商社マンが、たった一人の女に寄せる純情な想い
正直なところ、せっかくの料理も会場装飾も、言ってしまうと里奈がどんなドレスを着ていたかも覚えてはいない。
思い出されるのは、ただ彼女が新郎・二階堂直哉の隣に佇む姿が抜群にしっくりきていたこと。左手薬指に光るダイヤが目を見張る大きさだったこと。そして何より幸福そうな彼女の笑顔が、眩いほどの輝きを放っていたことだ。
そんな里奈を前にして僕は、ある種達観したかのような不思議な感覚を抱いた。
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第5話:「まさか、浮気…?」金曜夜の西麻布。新婚の商社マンが目撃した、ある男女の密会現場
「こんな部屋で暮らせるなんて」とどこまでも健気な彼女は、大量の荷ほどきや慣れない場所での必需品の買い出しなど、骨の折れる作業も文句ひとつ言わず一切を引き受けてくれた。
一方の僕はというと、シンガポールでも赴任早々、あちこちから声がかかり飲みの誘いが絶えない。「仕事だ」と胸を張れるものもあればそうでないもの(主にCAとの食事会)もあったが、しかし結婚前と同様、美月は僕の前で抜群の包容力を見せていた。
僕たちの新婚生活は順調だった。
…少なくとも、僕はそう思っていた。
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第6話:「ただ、2人で食事しただけ」新婚の商社マンがセレブ妻との密会に使った“友情”という隠れ蓑
里奈から届いた連絡が、僕の心を震わせたことは認める。
しかしその内容はありふれた社交辞令であったし、他愛のないやり取りに終始するはずだった。だから思いがけず「今から会える?」などと誘われて、僕は一瞬、躊躇したのだ。
結果として会いに行ったのも、下心の類では決してない。偶然にも前の晩に目撃した、里奈の夫・二階堂の裏の顔。それが気がかりだった。
僕は“友達”として、里奈が今幸せであることを、この目で確かめておきたかった。
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第7話:「あの女だけは許せない」結婚前夜。新妻が年下エリート夫の“女友達”に感じる、危険な予感
愛する男の変化に気づかぬほど、私は鈍感ではない。日本への短期出張から戻った廉は、些細だが明らかに違っていた。
どこかソワソワしていたかと思ったら急に私を気遣ったり、どこに行くにもスマホを持ち歩いたり、会話の途中でふいに上の空になって私の声に気づかなかったりする。
−“あの女”と何かあったのだ。
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第8話:「もう、夫とはしたくない…」 友達だった既婚男女が、不適切な関係に陥るまで
「ごめんな、美月。ちょうど同期が同じタイミングでロンドンから戻っててさぁ。せっかくだし久しぶりに飲もうぜって話になったから」
意識して穏やかに、僕はすでに何度も伝えた事情を繰り返す。しかし、この説明は明らかな嘘だ。同期と会う予定などない。
土曜夜の、本当の予定…それは、大学時代にゴルフサークルで出会った仲間たちとの10周年パーティーである。僕はそれに、里奈と一緒に参加する約束をしていた。
…すでにある種の“共犯意識”で結ばれていた僕たちが、このタイミングで会うことの意味に、お互い敢えて気づかぬふりをして。
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第9話:「妻への罪悪感は、ない」婚外恋愛に溺れた商社マンの、身勝手な欲望と小細工
3歳年上らしいが、童顔で幼い顔立ち、華奢で小柄なスタイルなどが自分と似ていたからかもしれない。どこだか忘れたが女子大卒で、結婚前は銀行の一般職だったというその経歴もなんというか“普通”で安心感がある。
つまり、結衣は美月が好きなのだ。相沢里奈よりも。というより、相沢里奈なんて嫌いである。昔から、嫌いだった。
なぜかって?…そんなことは知らない。女が女を嫌うのに、いつも理由なんかないのだ。
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第10話:妻を抱く苦痛から目を逸らし、“恋人”との蜜月に溺れる。理性を失った男の不埒な言い分
…真に彼女のことを思うなら、夜の間に帰すべきだった。
だがこの時、僕には里奈が他の男の妻であるという実感がまるでなかった。
ずっと噛み合わなかった歯車が今、ピタリと合った。里奈を抱くたび昂まっていく熱情が、その運命の正しさを証明しているようにさえ感じていたのだ。
このまま、時が止まればいい。そんな陳腐な願いを唱えながら、結局、僕と里奈はフライトの時間ギリギリまで離れなかった。
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第11話:「誰とLINEしてるの?」夫の浮気に気づいた妻による、反撃開始のカウントダウン
“ありがとう。嬉しい”
里奈からメッセージが届くたびに身体は熱を帯び、心を奪われていく。それゆえ僕は自分で気づくことができなかった。
保ち続けていたはずの警戒心が、徐々に失われていることに。
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第12話:夫の浮気を見抜いた妻の執念。ホテルのロビーで4時間待ち続けた女が目にした、怒りの光景
虫の知らせ、だったのかもしれない。それは、廉とともに日本へ帰国する、ちょうど1週間前のこと。ずっと放置していたFacebookを開いたら、1通の友達リクエストが届いているのを見つけた。
表示された“天野(早川)結衣”というアカウント名を見てもすぐにはピンとこなかったが、「誰だろう」と呟きつつプロフィール写真を拡大し記憶が蘇った。廉の女友達だ。結婚式の二次会に来ていた。
いや、天野結衣はおそらくただの友達ではない。きっと昔の彼女だろうと、実は私にはすぐにわかった。
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第13話:「僕に、責任は取れない」人妻に手を出した男の本音。彼を恐怖に突き落とす、最悪のシナリオとは
時間を確認しようとベッドサイドのスマホを気だるく手に取った僕は、美月から届いたメッセージに思わず身体を震わせた。里奈とリッツの部屋で落ち合ってからというもの、僕は美月のことを一度も思い出していなかった。
里奈と過ごす時間はいつも、僕と里奈だけの世界で過ぎていく。彼女と、その深い繋がりを確かめるように抱き合う快楽の前では、他のことを考える隙などない。
しかし美月からのLINEで突如“現実”に引き戻された僕は、みるみる冷えていく頭と未だ熱をもつ身体とのギャップに、自分が身を置く状況の不当さを認識せざるを得なかった。
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第14話:暴走する、美しき人妻への愛欲。制御不能に陥った男が思わず口にした、不実な言葉
廉が私を手放したくないのは、おそらくそういう現実的な理由だ。
しかし男女を永く結びつけるものは、純愛なんかじゃない。ましてや非日常の高揚に浮かれ不貞を重ねる、薄汚い欲情でもない。結婚は現実で、生活なのだから。だけど廉、心配しなくても大丈夫よ。私は離婚なんてしない。
私が日本に残るのは、廉を苦しめたいわけでも責めたいわけでもない。
…ただ、“やるべきこと”が残っているだけだから。
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第15話:夫の浮気相手が、私より先に妊娠した。男の過ちを全て受け入れた年上妻の、惨めな誤算
「廉が戻ってくるまでに、綺麗に整えておくわ」
ウキウキとした声に、彼女が夫の帰国を心待ちにしているのが伝わってきて、僕はそんな美月を心から愛しい、と思った。
だが運命というのは、どこまでも残酷だ。日本への本帰国で、僕と美月は久しぶりに平和で穏やかな結婚生活を取り戻す…はずだった。
しかしそれは同時にあろうことか僕と里奈を、再び抗いようなく引き寄せてしまうきっかけにもなってしまうのだから。
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第16話:「子どもができたの」まさか、そんな。婚外恋愛に溺れた男が突きつけられた、信じがたい現実
これからも美月と、円満に夫婦関係を続けていく。その覚悟をもってすれば、子づくりに協力することくらい、夫として当然の義務だと思えるようになったのだ。
「今日は18時…いや、19時には会社出れると思う。家で一緒に食事しよう」
そう答える僕に、美月は「じゃあロールキャベツにするね。廉、好きでしょ?」と控えめに笑う。
しかしながらこの日、僕は結局、妻との約束を守ることができなかった。というのも、さぁオフィスを出ようかというタイミングで、意外な女が連絡を寄越したのだ。
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第17話:従順だった妻が急に豹変した理由。夫は知る由もない、平日昼間の“ある出来事”とは
それは、糸が切れるように一瞬のことだった。
−別に、子どもとかいなくてもよくない?−
廉がそう口にしたとき、私の胸は刹那の間、強く痛んだ。しかしその次の瞬間、突如として何も感じなくなってしまったのだ。
あまりにも痛すぎて、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。もしくは、疲れて果ててしまったか。私はもうずっと、廉の前で無理ばかりしていたから。
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第18話:豹変した妻から、突然の離婚宣告...独り身となった男が女々しくも思い出す “忘れられない女”
美月が、変わった。日が経つにつれ、その変化は“気のせい”で済ませられるものではなくなっていった。
とは言っても別に朝帰りするとか、家事をしてくれないとか、口をきかないとか、そういう目に見える話ではない。
むしろそういうわかりやすい変化であったなら、取り返しがつかなくなる前に、僕にも対処のしようがあった。
僕を見る目が以前と違う。話しかける声のトーンが違う。妻の変化はそういうもので、ハッと気がついた時にはもう、彼女の僕に対する無関心は決定的なものになっていた。
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第19話:「今度こそ、君を守りたい」独身に戻り、ついに覚悟を決めた男だったが...。予想外な彼女の反応とは
…そういえば、里奈と二階堂が暮らす家も六本木だ。
だが、どれだけ近くにいても偶然に出会うことなどなかった。不思議なもので、どれだけ離れていても引き寄せられるタイミングがある一方で、縁のない時にはとことんないらしい。
美月と離婚した日に僕が里奈に送ったメールも結局、返事が届かなかった。
その代わり、というわけではないが、離婚したことをどこからか聞いたらしい未祐が、再び僕に連絡をよこしたのだ。
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この記事へのコメント
でも終わってしまう寂しい気持ち、、、
不実なことも全てひっくるめて
どこかでこの二人に結びついて
辿り着いて欲しいなと、思います。