2018.12.01
有馬紅子 Vol.22深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。
それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。
だが、有閑マダムへまっしぐらだったはずの女が、ある日を境に全てを失う。
「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。
「有馬紅子」一挙に全話おさらい!
第1話:夫が若い女と突然の失踪。社会経験ほぼゼロの女が直面した、過酷な現実
私は、つい最近40歳になった。貴秋さんが、船を貸切り開いてくれた誕生日パーティのことを思い出しながら…ふと、気がついた。
―貴秋さんはどこ?
彼は私より必ず先に起きるし、私が2階の寝室から降りてくる頃には、毎日決まって、新聞を読みながら紅茶を飲んでいるのに。『紅(べに)、おはよう』と微笑む、彼のあの穏やかな声を、今朝はまだ聞いていない。
「貴秋さんは、お出かけ?」
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第2話:電車に乗ったこともなかった元お嬢様が、全てを捨ててでも絶対に守り抜いたプライド
「大丈夫に決まっています」
背を向けたまま、そう言われました。その声は震えているようにも聞こえましたが、私はそれ以上どうすることもできず、紅子さまをテラスに1人残したまま、部屋に戻ったのです。
ー貴秋さま。あの手紙はひどすぎます。あなたは、紅子さまの本質を何もお分かりになっていなかったのですね。
幼き頃からお仕えしたお坊っちゃまの、罪深い行動に少々腹を立てながら…これから起こるであろうことを予測し、私はため息をついたのでした。
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第3話:「僕はあなたみたいな人が嫌いです」。年下上司からの無遠慮な言葉にも、女がキレなかった理由
「正直に言わせて頂くと、僕は縁故採用されてくる人が大嫌いで、これまでは上司命令であろうと拒んできました。僕は自分の仕事に誇りを持ってますから。だけどあなたはトップからのお達しだと…断れなかった。僕が負けたんです」
悔しそうな口調に、怒りがこもった。
秋雅の心配通り、やはり歓迎はされていない。けれど、不思議と私は坂巻さんに嫌悪感を抱かなかった。
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第4話:「年のわりに綺麗じゃん」。働き始めた生粋のお嬢様を襲う、美しい同僚たちからの辛辣な言葉
今日で入社して4日目。銀座にある、日本でトップクラスの売り上げを誇る百貨店に配属された。
その中にある、Bella onda(ベッラ オンダ)の店舗で、私は「とりあえず」働くことになったのだ。
入社1日目は、コピーやパソコンの使い方を教わり、電話の応対を何本かしただけ。ほとんど何もすることがないまま終わろうとしていた時だった。私は、坂巻さんにデスクに呼ばれた。
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第5話:身につけてる腕時計で“値踏み”する。ハイブランドのトップセールスが明かす、したたかな戦略
「…申し訳ありません」
「すっかり謝りグセがついちゃいましたね。あまりいい傾向ではないですけど」
そう言うと小河さんは、小さなため息をつき手招きして、私をバックヤードに呼び込んだ。
「有馬さん、先程お見送りしたお客様のこと、きちんと覚えていますか?どんなお客様だったか、私に説明してみてください。」
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第6話:若くして成り上がった女には、恐ろしい裏の顔がある?生粋のお嬢様に芽生えた、初めての疑心暗鬼
「田所さん、小河さんとお話された後、もう、何時間も前にお帰りになったはずですよね?もしかして、私を待っていて下さったんですか?」
すると涼子さんは、スッと真顔になり、私の質問には答えずに言った。
「小河さんには気をつけてください、と言いたくて。彼女は自分の出世のことしか考えていませんし、その野心に紅子さまを利用するつもりです。出世のためなら、手段を選ばない人として有名なんですから」
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第7話:「この女をエサにしよう…」悪質な客に、“使えない令嬢社員”を差し出した上司の、腹黒い計算
客間に通されたのに座らせてもらえないことも、金切り声で罵られることも初めてなのだろうに、まるで動じず、乱れない。むしろ慈悲深い表情を浮かべているようにさえ見えて、私の胸の奥が、またジリッとしてしまう。
ー自分だけ…聖人君子だとでも思っているのだろうか。
正直なところ、私は有馬さんのような、人を疑うことを知らず綺麗ごとだけで生きているような人が苦手だ。仕事上は差別せず向き合い指導もするが、深入りするつもりもない。
―まあ今回は…有馬さんを利用させてもらいますが。
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第8話:漏れ出てしまった本音。出世のために負の感情を押し殺してきた女の、迂闊な失態
「紅子さん。隣にいる小河さんの顔を、見てみなさいよ」
千穂さまの言葉に、ハッとした時にはもう遅かった。有馬さんが、私の表情を見て困惑している。そしてまたケタケタと甲高い千穂さまの声が。
「小河さん、あなた自分が今どんな顔で紅子さんを睨んでいたか、わかってる?恐ろしかったわよぉ。いつも自分の感情を見せないあなたが、そんな顔を人前でさらけ出すなんて。あなたにも感情なんてあったのねえ」
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第9話:会社の上司から大口顧客まで。出会う男たちを次々と魅了し愛される女の、秘めたる才能
カタログを広げながら商品を探している様子の加藤さんが、困りながらお客様たちに、sorryと繰り返していた。お客様たちの声は段々大きくなり、その内容が漏れ聞こえてきた。
「あなたは、マハラジャがこのブランドに特注した商品を知らない、と言うのですか?マハラジャは1800年代後半からこちらのブランドの大顧客だったというのに」
マハラジャとは、ある時代以降のインドの王のこと。そのマハラジャがBella Ondaに特注した商品といえば…。実は、私はある場所で…それを見たことがあった。
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第10話:「彼女には、私さえいればいいの」。憧れの女性から全てを奪い始めた、女友達の歪んだ執着
―きっと、有馬さんはどんどん成長する。
私は、売り上げや勤務評価を含めた有馬さんについてのレポートを書きあげ、メールに添付した。宛先は、元恋人である坂巻透。
私が週1で彼に有馬さんの評価を送り、それを元にした彼の判断で、今後の有馬さんの処遇が決まると聞いている。事務的な本文を書き終え送信しようとした時、メールを受信した音が2回鳴った。
1通は透から。そして、もう1通は…。
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第11話:彼の1番の理解者は私。そう信じていた女を奈落の底に突き落とした、元彼の裏切り
「何か、問題があるのではないですか?」
私の問いに小河さんは、ありませんよ、とだけ呟いて自分の作業に戻ってしまった。
「でも、今ため息を…。もし何かまた、私が間違いを犯してしまっているなら、お手数をおかけして申し訳ないのですが、ご指摘いただけないでしょうか?」
私はもう一度問いかけてみる。小河さんにとってみれば、ご迷惑な質問なのかもしれない。すると、作業を続けていた小河さんの顔がゆっくりと上がり…その顔には、明らかな苛立ちが見えた。
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第12話:若い女と駆け落ちした夫との再会と、偽造された離婚届。正体不明の敵に狙われる、由緒正しき一族
1人暮らしは楽ではないし、失敗も多い。悲しく虚しい気持ちになることも少なくないけれど、それでも今の私は働く喜びを知り、それを誰かと分かち合う幸せも知った。もう過去の自分には戻れないし、戻りたくもない。
―この強大な家とのしがらみを…今日限り、断ち切ってみせる。
門から数分ほど歩いただろうか。ようやく玄関に着いた瞬間、私の到着を待ち構え、見張っていたかのように月城家の扉が開いた。
その扉を開けたのは…。
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第13話:16年間、好きな相手に手紙を送り続けた女。気づけば狂気に変わっていた、愛情と執着心
偽装された離婚届と、謎の手紙。そこにあった筆跡は、同一人物のもの。
つまり、私と貴秋さんを離婚させたい誰かがいて、その人が、私が結婚した当時から、気味の悪い手紙を月城家に送ってきていた。女性の字だというから、貴秋さんのことをお好きな方かもしれない。いずれにせよ…。
―私と貴秋さんを罠にはめようとする方がいらっしゃるということね。
―私の人生を操ろうとする誰かの存在など、許すわけにはいきません。
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第14話:「すべては仕組まれていた?」妻を捨てて若い女に走った夫の後悔と、膨らむばかりの猜疑心
「坂巻さんは、ネゴシエイターとしても優秀な人なんですよ。イタリア語も堪能で、本社デザイナーの信頼も厚いし。だから結果的に彼を頼る人が多くて、こういうトラブルが起こると、てんてこ舞いになっちゃうんですよね」
私が本社で働き始めてから、一度だけ様子を見にきてくれた加藤さんがそう教えてくれたけれど、坂巻さんの働きぶりには、本当に尊敬の念が湧き上がってくる。
本社勤務は、私にとっては突然の辞令だった。1週間前に突然、小河さんに呼び出され、こう言われたのだ。
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第15話:手紙に込めていた秘密が暴かれた時。失望した女が、着々と進める復讐計画
「…これ、田所さんが、送ってきてたんでしょう。月城家に。紅子へのメッセージですよね」
僕は月城家に送られてきていた手紙のコピーを取り出し、机の上に置いた。現物は、いざという時の物証にするためにと、西条が保管している。
田所さんはそのコピーにちらりと目をやると、忌々しそうに、少しだけ顔を歪めた。
「そうですよ。私から紅子さんへのお手紙です。でもなぜ貴秋さんは…私からだと気がついたんですか?」
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第16話:「相談に乗っていただけますか?」弱みを見せたフリして近づいてくる女の、暴走が始まる時
「…あの、有馬さん、返事は今じゃなくても…仕事中でしたね…あの、何か、すいませんでし、た」
急に恥ずかしくなった僕は、有馬さんの視線から逃げるように、顔をそらした。冷静さが売りのはずの自分が、なぜこんなに衝動的になってしまったのか。
タクシーの窓の外の景色を見ている有馬さんの横顔が、あまりにも清く凛と見えて、グッときたから…などと、中学生男子の言い訳だったとしても恥ずかしいレベルだ。
「坂巻さん…私は」
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第17話:弱ったフリして、憧れの人を部屋に連れ込んだ女。2人の男を翻弄する、危険な計画
「お食事は本当に有難いのだけれど、涼子さん、悩んでらっしゃるのでしょう?私に何か相談があるとおっしゃっていたわよね?」
私の問いに、涼子さんは一瞬キョトンとしたように目を見開いた後、しばらく私を見つめ、真剣な顔で言った。
「あります。紅子さんにだけ、お伝えしたいこと、聞きたいことが、ずっと」
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第18話:憎悪、嫉妬、愛情…1人の女を巡って、6人の男女の思惑が交錯する、運命の夜
「なんで、田所さんのことまで探してるんだろう」
僕は思わず口に出してしまっていたようで、加藤さんが、それ私も思いました、と反応した時、僕の電話が鳴った。
画面に出た文字は『小河利佳子』。
彼女にも連絡が行ったのだろうと予測しながら電話に出た僕に、彼女は珍しく焦った口調で問い詰めてきた。
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第19話:“自分は特別”と錯覚してしまった女の悲劇。一度味わってしまった高揚感に、狂わされた人生
僕たちのように、ラグジュアリーブランドで働く以上、顧客の方々が身につけられるものについての知識はマストだ。だから彼が身につけているものが、ただのハイブランドのものではなく、ビスポークであることが分かる。
クソダサい、など、おそらく人生で初めて言われたはずだが…。ダサい、という言葉の意味そのものさえわからぬ様子で、月城さんは僕たちを見て微笑んでいる。
そして、彼を睨みつけていた僕と加藤さんに向かって、その優雅な笑みのままで言った。
第19話の続きはこちら
第20話:結婚17年後に暴かれた、夫の秘密。隠し子の存在を、妻に知らせた女の目的とは
「私以外の全てを失って欲しかった。だから今から…貴秋さんの恋の真相を…あなたが信じていたあの男の秘密を教えましょう」
―貴秋さんの、恋の真相…?
涼子さんの言葉に、あの日の…貴秋さんが、私と西条さんに『生まれて初めての恋に落ちた』と書き残したあの手紙を読んだ時の胸の痛みが、ドクンと蘇った。
第20話の続きはこちら
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