有馬紅子 Vol.13

16年間、好きな相手に手紙を送り続けた女。気づけば狂気に変わっていた、愛情と執着心

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。

なんとか就職に成功し、新たな一歩を踏み出した紅子。職場の同僚や上司との人間関係が複雑になっていく中で、突然、月城家に呼ばれることになり、そこで以前届いていた“謎の手紙”の秘密が明らかになる。

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


「貴秋さん…もしかして、これを書いた方に思い当たる方がいるの?」

私が問いかけると、手紙に釘付けになっていた貴秋さんが顔を上げ、私ではなく西条さんを見て言った。

「西条、手にとって見てもいいかな?」

西条さんが無言で頷くと、貴秋さんはビニール袋の束の中から一つを引き抜き、離婚届と見比べながら凝視し始めた。

貴秋さんが、西条さんに確認したのには訳がある。

月城家には、嫌がらせの手紙や脅迫状といったものが数多く届く。だから危険回避のため、届いた荷物や郵便物の全てに最初に目を通すのは西条さんの役目だ。

西条さんのチェック後、問題がないと判断されたものは、宛名に書かれた本人の元に届けられるが、何かしら不審な点が見受けられるものは、西条さんが開封し、中身を確認する。

中身を確認した西条さんが、いたずらに過ぎないと判断したものは破棄。

根深い怨恨や、やがて事件に繋がるかもしれない危険性を西条さんが感じた場合、それは指紋や筆跡などの証拠を残すため、パッキングされ保管されることになる。

「離婚届と同じ女性の文字だと判定されたそれらの手紙は、紅子さまが月城家に入られて以来、届くようになりました。常に宛名も送り主の名も書かれてはいませんでした。

1度貴秋さまにはお見せしたはずですが、少々気味悪い内容でしたもので、紅子さまにお見せするのは…」

「私が嫌な気持ちにならないように、配慮して下さっていたのね。西条さん、本当にありがとう」

私の言葉に西条さんが、優しい笑顔を返してくれる。その心遣いに、私がこの月城家でどんなに守られていたかを痛感するし、感謝しかない。

偽装された離婚届と、謎の手紙。そこにあった筆跡は、同一人物のもの。

つまり、私と貴秋さんを離婚させたい誰かがいて、その人が、私が結婚した当時から、気味の悪い手紙を月城家に送ってきていた。女性の字だというから、貴秋さんのことをお好きな方かもしれない。いずれにせよ…。

―私と貴秋さんを罠にはめようとする方がいらっしゃるということね。

―私の人生を操ろうとする誰かの存在など、許すわけにはいきません。

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