有馬紅子 Vol.9

会社の上司から大口顧客まで。出会う男たちを次々と魅了し愛される女の、秘めたる才能

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。

しかし就職に成功し、新たな一歩を踏み出した紅子。ある日、上司の小河と共に悪質なクレーム処理に向かった紅子だが、その場での発言が小河の負の感情を引き出してしまう

そして紅子に対して劣等感が芽生えた小河の元に、紅子が始めての売り上げを上げ、しかもそれが大口顧客になりそうだ、という連絡が入った

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


「紅子さんの息子さんって、超イケメンじゃん!」

「…イケメン、でしょうか」

「私、超タイプの顔です♡これで17歳とかヤバーイ♡海外で育つと大人っぽくなるのかなぁ」

携帯に保存してあった1人息子の秋雅(あきまさ)の写真。それを見ながら大きな声を上げているのは、同じ店で働く加藤さんで、いつのまにか私のことを紅子さんと呼んでいる。

17歳の息子がいることも、離婚を申し出て家を出たことも、いつの間にか聞き出されてしまったが、加藤さんの人懐っこさが微笑ましい。

「今日はおごらせて下さい!」

仕事終わりのバックヤードで加藤さんに誘われ、私は今、生まれて初めて“サシ飲み”というものを体験している。場所は、本社近くのワインバー。

加藤さん曰く、会社の同僚たちでよく集まる『いつもの店』だそうだ。

どうやら、私が今日彼女のピンチを助けた、ということらしく、そのお礼と私の初売り上げのお祝いを兼ねて、と言ってくれた時は嬉しかった。

「いやー、今日はマジで助かりました。紅子さんに超感謝だし、マジリスペクトって感じ」

店舗にいる時とは全く違う言葉遣いの加藤さんに、最初は驚いた。私が戸惑っていると、私元々はギャルなんでー、と豪快に笑った。そしてまずは、ちゃんと謝らせてください、と真顔になった。

「私はずっと、うちのブランド…Bella Onda(ベッラ オンダ)に憧れてて…就活、マジでむちゃくちゃ頑張ったんです。大学の勉強はもちろん、バイトで稼いだお金でマナー教室にも通ったし、イタリア語も勉強した。

だから紅子さんがうちに来た時、超お嬢の超縁故だって聞いたから、ついムカついちゃって…。悪口言ったこと、すいませんでした!」

「いえ、加藤さんのお気持ちは当然ですから…」

「もー、その喋り方やめてくれません?私、27歳ですよ。紅子さんの方が13も年上なんだから、むしろタメ口で!」

屈託なく笑う彼女との距離がグッと近づいた気がして、ふと私は、今日の自分の失敗を彼女に相談したくなった。

「あの、今日、小河さんを怒らせてしまったんですが…」

そこでドアが開く音がして、いらっしゃいませ、という声が続いた。すると加藤さんの視線が、カウンターに並んで座っていた私の奥に動き、入り口の方向で止まった。

「坂巻さん!」

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