有馬紅子 Vol.17

弱ったフリして、憧れの人を部屋に連れ込んだ女。2人の男を翻弄する、危険な計画

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。

しかし就職に成功し、新たな一歩を踏み出した紅子だが、ある日久しぶりに月城家に呼ばれることになった。そこで手紙の謎が明かされ、夫の貴秋送り主に気がつき、田所涼子を呼び出し問い詰める。そして暴走を始めた涼子は、紅子に再び近づこうとする。

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


「素敵な部屋にお住まいなのね」

レストランでのお食事かと思っていたけれど、人の多いところで話したくないという涼子さんに、ご自宅に誘われた。

涼子さんと一緒に、市ヶ谷にある会社の前でタクシーを捕まえて、20分ほど乗っただろうか。

地図や住所についてはあまり詳しくないので、ここがどこなのか、よく分かってはいないけれど、エレベーターに乗った涼子さんは「28」のボタンを押していた。

高層マンションの28階などという部屋で暮らしたことがない私は、窓から見える夜の東京の明かりに見惚れてしまう。

準備をするのでソファーに座っていて下さい、と案内されたリビングは、私の一人暮らしの部屋よりも随分広い。

比べてはいけないわね、と心の中で苦笑いしながら、黒のモダンファニチャーで統一された部屋の角に、一つだけポツンと置かれているソファーが目に入る。

「これはあの時の…ベルサイユの…ヴィンテージソファーかしら。私の家にあったものじゃない?」

「そうです、やっぱり気がついて頂けた。あれからずっと…何度引っ越しても、この椅子だけは大切にしているんです、私」

嬉しそうに涼子さんは言った。私は懐かしくなり、その赤いベルベットの背もたれを撫でてみる。

「良かったら座ってみてください」

涼子さんに勧められるまま、腰掛けてみる。

「ああ…やっぱりお似合いになりますね。プリンセスの椅子ですから。紅子さまと赤いベルベット…うっとりします」

大げさな涼子さんに、何をおっしゃるの、と返して、この椅子が涼子さんの手に渡った、あの学生の日のことを思い出してみる。

―あれは、確か中学校のバザーで…。

その時、インターフォンが鳴った。

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