有馬紅子 Vol.4

「年のわりに綺麗じゃん」。働き始めた生粋のお嬢様を襲う、美しい同僚たちからの辛辣な言葉

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。だが生粋のお嬢様は、そんなことで負けたりしない。

17歳の一人息子・秋雅に反対されながらも離婚を決意し、就職先を探して新たな一歩を踏み出す。そして就職先で昔馴染みで自分を慕ってくれていた、涼子と再会する。

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


「Oh gosh…やっぱり俺の寄宿舎の部屋より狭いじゃん」

西条さんに手伝ってもらい、月城家から運び込んだ荷物を整理し始めたところで、秋雅が冷やかしにやって来た。

「1LDK…っていうか、1DKか。紅子さん、本当に大丈夫なの?キッチンの香りがそのままベッドに来るんだよ?」

そのからかい口調に、私は作業を止めぬまま答える。

「…コンパクトなお部屋の方がお掃除しやすいでしょ」

「お掃除ねえ…家事とかやってる紅子さんが想像つかないけど」

「紅子さまは、お料理もお掃除も、お上手です。幼いころの秋雅さまの誕生日会などは、メインからデザートに至るまで紅子さまのご指示で…」

「西条さん、もういいわ」

生真面目な西条さんが、からかい続ける秋雅から私をかばってくれたけれど、秋雅の気持ちもよく分かっていた。秋雅は、ここまできても何とか私の一人暮らしをやめさせたいのだ。

たしかに私は、一通りのことはできる。生家で雇っていたシェフやお手伝いさんたちに付きまとい、教えてもらってきたから。ただ問題はお金なのだと、私にも分かってきた。

実はここ1週間、世の中の「お金」のことで、私は驚きっぱなしだ。

例えば、私がもらえるお給料。本来なら年俸契約らしいが、私は契約社員としての扱いで、月々手取りで28万円を頂くことになった。

バッグ1つも買えない値段が私の対価だということに正直驚いてしまったけれど、秋雅には「貰いすぎ」だと言われたから、そういうものなのだろう。きっとどなたかの、口利きのおかげさまだと感謝している。

お給料を頂くまでは、結婚する前から持っていた自分の口座に残っているわずか数百万円の貯金から、家を借りるお金を出すつもりだった。

「少し割高かなとは思いましたが、紅子さまの安全を考えますと譲れない条件もございましたので」

絶対にオートロックは外せない、と秋雅と西条さんが吟味してくれた物件は、会社まで徒歩10分ほどの距離にある、家賃11万円の部屋。私のお給料で支払えるのはこの額が限界らしい。

30平米にも満たず、収納もほとんど無い部屋。

私は、持ってきた服や小物、食器類をさらに吟味して捨てることにした。

捨てるという行為が今の自分にはぴったりだと思いながらも、愛着があるものを捨てるのは寂しかった。

少し感傷的になりそうな気持ちを変えたくて、良いことに目を向けてみる。

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