聖女の仮面 Vol.14

2019年ヒット小説総集編:「聖女の仮面」

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、あの時いなくなった女が現れてー。

4人の女が美しい仮面の下に隠す、素顔と真実とは?


2019年は、本当にありがとうございました。2019年ヒット小説総集編、「聖女の仮面」一挙に全話おさらい!

第1話:10年前、同級生の女が忽然と姿を消した。27歳になった女たちの、衝撃的な再会

「よし、設置オッケー!二人、ここに立って。」

恵子は萌の左側に立つと、息苦しさと蒸し暑さに耐えながら、連射音を立てるカメラに笑顔を向けたのだった。

同級生というのは不思議なものだと、恵子はしみじみと思う。

「友情」という言葉だけでは表せないような、強固な絆で結ばれた関係。それゆえに、一度形成されたヒエラルキーは、絶対に覆らない。

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第2話:「どうせ、整形したんでしょ…?」10年ぶりに会う友人の変貌ぶりに、嫉妬をむき出しにした女

ー本当に絹香なの…?面影はあるけれど、とても信じられない…。

恵子は、目の前で微笑む美女を見つめながら、昔の記憶を必死に手繰り寄せていた。確かに昔から目鼻立ちははっきりしていたような気はするし、肌はキメ細かく美しかったはず。

けれど、ぽっちゃりとした体形や、笑うたびに覗く八重歯、本人も気にしていた天然パーマの印象が強すぎて、どうしても今目の前にいる人物と、あの頃の絹香が一致しないのだ。

それは、約束の時間から大幅に遅れて現れた萌も同じらしく、遅刻の言い訳もそこそこに、驚きの声を上げ続けている。

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第3話:「純潔ではない」というレッテルを貼られ…。過去に嵌められた美女が、友人の前に再び現れた理由

優しい微笑みを浮かべる絹香は、嫌味を言っているようには見えないが、恵子は何とも言えない気まずさから、下唇を噛みしめた。

「だけど、少し話せばすぐわかった。みんな、あの頃と中身は全然変わってない。昔に戻ったみたいで、今日は本当に楽しかったのよ。

…だから、水を差すようで、聞けなかった。今日、みんなに確かめたいと思っていたことを。」

絹香が、手をぐっと握り締める。

「私、犯人を探してるの。…私を聖陽女学院から追い出した、犯人をね。」

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第4話:「彼、一度や二度じゃないの…」。女友達に、恋人の手癖の悪さを忠告しようとした既婚女

手嶋。…絹香の婚約者で、萌の元恋人の名前。それを聞いた萌の目が苦しげに歪むのに気付きながらも、恵子は話を続ける。

「だからね、甘いものを食べながらおしゃべりしたら、元気でるかなって思ったの。…余計なお世話だったら、ごめん。」

俯き加減の萌の目は、潤んでいるように見える。ズズッと鼻をすすったあと、しばらくしてから萌は口を開いた。

「私ね、絹香のことが…心配なの。」

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第5話:「運命の再会を果たしたの…」夜10時。夫と子どもが待つ家には帰らず、妻が居た場所とは

―まさか、萌は手嶋君の家に行ったんじゃ…?

時計はすでに22時を回り、萌が恵子の家を後にしてから、もう何時間も経っている。萌は、近所で用事があるとはいっていたものの、手嶋の家に行っているとは限らない。

しかし、しきりに手嶋と絹香を引き離そうと話していた異常な様子からして、その可能性が高いのではないかと、恵子は思ったのだ。

恵子が十字路に差し掛かったちょうどそのとき、金切り声が夜道に響き渡った。

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第6話:「あなたのパパ、父の会社の従業員だったの?」10年来の友情を経て発覚した、女のヒエラルキー

恵子の両親も厳しかったので、過保護な親にうんざりする萌の気持ちをよく理解できた。どちらかと言えば放任主義だった絹香やさくらの親と比較しては、二人で親の愚痴をいったものだ。

―それなのに、家出の事なんて私には一言も…。

またも判明した自分だけが知らない事実に、恵子の胸にドロッとした感情が拡がる。なぜ自分だけがこうも蚊帳の外なのか、高校1年だった10年前の冬を思い返してみるものの、何故か記憶が曖昧で思い出せない。

真実を知りたい。その一心で恵子は、さくらに連絡したのだった。

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第7話:「私、偶然見ちゃった・・・」。ほんの出来心から犯した罪を、友人に目撃された女

「萌のこと、何か知ってる?私からはなかなか連絡しづらくて。」
「うん、私も直接話せてないけど、さくらは連絡を取ってるみたい。」

前から別居をしていたことや、いまは実家に帰っていることなど、恵子はさくらから聞いた情報を事細かに伝えた。

「あと、高校時代に家出を阻止されたことで、萌が当時、絹香を恨んでいたかもしれないって。それで絹香を退学に追いやる嘘をついたかもしれないって…。でも絹香は、萌ママから電話があったから、仕方なくアテを伝えただけなんだよね?

しかも、さくらも一緒に伝えてるのに、萌は絹香だけを恨んだりするのかな?」

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第8話:「自分の顔が、嫌いだったの」。友人が、10年前とは別人のように美女となった本当の理由

「さっき、私のことを絹香だと勘違いしたお父様が、言ってたわ。私の父から、私と仲良くするように言われてるから、って。…一体、どういうこと?何もかもが、よくわからないんだけど!」

戸惑いながらも強い口調で話す恵子に、絹香は一瞬驚いた表情を見せた。しかしすぐに事態を理解したようで、ゆっくりとまばたきをする。

「そうよね、驚いたわよね。…順を追って話すわ。」

絹香は、呼吸を整えるように息を吐いた。

「私は、あなたのお父様に頼まれたの。だから、友達になるため、あなたに近づいたのよ。」

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第9話:男性と写った1枚の写真がキッカケで、追い込まれた女。彼女が、友人に頼んだこととは

いつも自信なさげに薄ら笑いを浮かべるだけの彼女が、こんな表情をするのは珍しい。だが、10年前まで瓜二つと言われていた友人から、その風貌を目の前で否定されたのだから、無理もないだろう。

反応が面白くて、わざと昔の自分の写真に爪を立てると、恵子は露骨に悔しそうな顔をする。

―そうよね、悔しいはずよ。‥あの時の私も、こんな顔してたから、よくわかるわ。

高校の入学式の後、窓に映った自分の惨めな姿を忘れることなんてできない。でも仕方ない。あの日、生まれて初めて劣等感というものを自覚したのだから。

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第10話:「見かけは大人しそうな子が、影で凄いことしてたって」男が漏らした一言で、友人の本性を知った女

「そんなことより、もう一つ聞きたいことがあるの。…あなた、あの日学校で何してたの?」
「え?あの日って?」

何か勝手な想像をしているのか、さくらの目は再び輝き始めていたが、そんなことに構っていられない。私は背筋を正した。

ーさくら、あなたは共犯なの?

「高校1年の春休み、あなたは休みなのに学校に来ていた。あの時、何があったのかを聞かせて。」

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第11話:同級生の女からの無茶な依頼に、言いなりに…。知らぬ間に復讐の片棒を担がされていた女

認知症を患っている父は、整形してしまった私のことはもはや誰だかわからないようだが、代わりに昔の私にそっくりな恵子のことを、我が娘と思い込むに違いない。前回もそうだったのだから。

「えっと、今日は私はどうしたらいいんだっけ?…大丈夫かな。」

部屋に上がった恵子は、緊張しているのだろう。不安そうにこちらを見る彼女に、私は事細かに依頼事項を説明した。

「父に、これを渡してほしいの。話は適当に合わせてくれればいいから。」

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第12話:「男もお金も、美しい顔も手に入れたのに…」10年かけて立場逆転した27歳女が、不幸な理由とは

大手弁護士事務所の力は、絶大だった。こちらが想定していたよりもだいぶ早く事は進んだ。

結局、恵子の父親は、自社の不祥事こそ認めなかったが、「退社時の不手際に関するお見舞金」という名目で、まとまった額を支払うことに合意した。

それと同時に、私は恵子にある手紙を送ることにした。

10年前の真実。そして、恵子が見つけてくれた箱のお陰で成しえたことへの感謝を連ねた手紙を。

第12話の続きはこちら

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