聖女の仮面 Vol.10

「見かけは大人しそうな子が、影で凄いことしてたって」男が漏らした一言で、友人の本性を知った女

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香。

恵子は、絹香を学校から追い出した犯人を探るうちに、絹香の不思議な行動に巻き込まれていく。

とうとう仮面を剥いだ絹香は、恵子に頼みごとをし、他の友人の元へ向かった…。


「うちの父を紹介して欲しい?絹香ったら、突然なによ。問題でも起きちゃった?」

テーブルの向こうで、さくらは私の依頼を聞くや否や、目を輝かせた。

先ほどまでこちらが何を言い出すのか不安そうにしていたというのに、本当にわかりやすい。さくらのゴシップ好きは昔からだ。

萌の恋人が変わるたび、さくらは呆れたふりをしながらも、本当は一番話を聞きたがったし、クラスメイトに小さな噂が立つたびに首を突っ込んでいた。

そして必ず、事の顛末を私たちに面白おかしく話してくれた。

きっと私が突然去ったときには、極上のネタが来たと内心ワクワクしていただろう。

「あ!もしかして、手嶋君との婚約でなんか問題発生?でも、だとしたら、父の事務所の専門じゃないけど?」

さくらの希望が多分に混じった推測に、私はゆっくり首を振る。

「ううん…実はね、知り合いから、ある企業の違法行為について告発したいって相談を受けたの。ほら、あなたのお父様の事務所ってそういう問題に強いでしょ?」

「まあ、そうだけど…父の事務所は小さな案件はあんまり取り扱わないと思うけど。それに、絹香だって弁護士なのに、わざわざどうして私に頼むワケ?」

お好みのゴシップとはタイプが違う相談に、さくらの口調はあからさまにトーンダウンした。

途端に無言になると、私が手土産に持ってきた『POINT ET LIGNEのテリーヌオショコラ』を黙々と口に運んでいる。

私は自然な調子を装って、語りかけた。

「私は日本での資格を持っていないから。それにね、どうやら小さな話じゃなさそうなの。…でも、あなたのお父様の事務所には、推薦や紹介がないと話すらできないじゃない?だからお願い、さくらだけが頼りなのよ。」

低姿勢でお願いする私に気を良くしたのだろう。さくらの口元がピクッと動く。

「わかった。父に話してみる。…でもさ、なんで手嶋君に相談しないの?手嶋家も大きな会社を経営してるんだし、弁護士事務所の一つや二つ、紹介してくれそうな気がするけどね。…あ!もしかして喧嘩中とか?」

さくらの問いは、ごもっともだ。

だけど、この話は彼には伏せたまま進めなければならない。私は、イエスともノーとも取れる微妙な表情で、軽く首をかしげることにした。

「そんなことより、もう一つ聞きたいことがあるの。…あなた、あの日学校で何してたの?」
「え?あの日って?」

何か勝手な想像をしているのか、さくらの目は再び輝き始めていたが、そんなことに構っていられない。私は背筋を正した。

ーさくら、あなたは共犯なの?

「高校1年の春休み、あなたは休みなのに学校に来ていた。あの時、何があったのかを聞かせて。」

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