聖女の仮面 Vol.13

「男もお金も、美しい顔も手に入れたのに…」10年かけて立場逆転した27歳女が、不幸な理由とは

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

乃木恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香の目的は、自分を学校から追い出した犯人をつきとめること。

原因が恵子だという事実にたどり着いた絹香は、乃木家に復讐を果たすために行動に出る…。


「ここに、不正の証拠があります。誰もが知っている大企業のものです。」

分厚い封筒を手に立ちあがる私の全身を、目の前の男は品定めするように見つめた。いかにも弁護士らしい、疑いと興味に満ちた目で。

ここは、さくらの父親が代表を務める弁護士事務所だ。普通なら相手にされないような大手だが、やり手の弁護士をいきなり紹介してもらえたのは、さくらの後押しのお陰だろう。

恵子の協力により手に入れた、乃木家の不正の証拠がつまった封筒を渡すと、私は椅子に深く腰掛けた。やっとここまできた、という興奮からか、手にじっとりと汗をかいているのを感じる。

無言のまま時が過ぎ、目の前の男が封筒の中身を確認する音だけが部屋に響く。

「…これ以外にも何かありますか?また、当のご本人がいらっしゃらないようですが?」

弁護士の表情は険しい。私は、証拠はそれだけだということと、父がここに来られない理由を簡潔に答えた。

父が数年かけて集めたものとはいえ、大企業の不祥事の証拠としては不完全なものであることは、わかっていた。恐らく、このままだと不祥事があったとは判断できないと言われるのだろう。

「難しいですね。告発者の方に証言能力がないということもありますし…。」

さくらの父、つまり、事務所代表からの紹介ということもあり、無下には断りにくいのだろう。言葉を濁す男に、私はすがるように訴える。

「では…本件に関して父の受けた精神的苦痛に対して、慰謝料を要求します。どうかお手伝いしていただけませんか?」

普段なら大口の案件しか扱わない弁護士からしたら、なんの儲けにもならないつまらない依頼だろう。しかし、なんとかしぶしぶ了承してくれた。



大手弁護士事務所の力は、絶大だった。こちらが想定していたよりもだいぶ早く事は進んだ。

結局、恵子の父親は、自社の不祥事こそ認めなかったが、「退社時の不手際に関するお見舞金」という名目で、まとまった額を支払うことに合意した。

それと同時に、私は恵子にある手紙を送ることにした。

10年前の真実。そして、恵子が見つけてくれた箱のお陰で成しえたことへの感謝を連ねた手紙を。

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