聖女の仮面 Vol.7

「私、偶然見ちゃった・・・」。ほんの出来心から犯した罪を、友人に目撃された女

女は、仮面を被った生き物だ。

優しい微笑みの裏に、怒りや悲しみ、ときに秘密を隠し、本当の自分を偽りながら暮らしていく。

たとえば聖女のような女にだって、裏があるかもしれない。

それを美しい仮面で覆い隠しながら、生きているのだ。


◆これまでのあらすじ

恵子が高校生の頃、聖陽女学院で、ある一人の女生徒が、理由もわからず突然転校していった。

あれから10年。27歳となった恵子たちの前に、美しく姿を変えて現れた絹香

絹香に協力し、過去の真実を探っていた恵子は、幸せそうに見えた友人・が隠していた秘密に愕然とする。さらに、絹香と自分自身を繋ぐ新事実が浮上して・・・?


ー服装、間違えちゃったかな。

久しぶりに乗った地下鉄の車内は、もう秋だというのにじっとりとしている。

薄手のニットを選んだことを少し後悔しつつ、恵子は電車を降りた。

恵子が到着したのは、絹香の実家の最寄駅だ。10年ぶりの駅は、改装されたのかあの頃に比べとても綺麗になっている。

絹香の実家は、アメリカに行く前と変わっていない。

転勤の際、賃貸に出していたという家には、数年前から絹香の両親が戻っていたらしく、入籍するまでは絹香も実家で暮らす予定だという。

今朝、絹香から、実家に遊びに来ないかと誘われたときは、突然のことに驚いた。

しかし、父親同士の関係について電話で話して以来、更に親しくなったと感じていた親友からの誘いは、素直にとても嬉しいものだった。

「恵子!こっちよ!」

改札の向こう側で、絹香が手を振っている。その服装は偶然にも恵子と良く似ているが、汗ばんでいる恵子とは違い、とても涼やかに見えた。

「ふふ、駅で待ち合わせだなんて、昔みたいね。あ、でも恵子はうちに遊びに来た事はなかったかしら。」

「あ、でも、絹香がいなくなった時、心配で家を見に行ったの。さくらと…萌と3人で。」

絹香と萌の間で一波乱があってから、まだ日が浅い。

萌の名前を出すのは少し躊躇われたが、絹香は何も気にするそぶりは見せず、そう、と一言呟いただけだった。

「今日は無理言ってごめんなさいね。突然だったのに、来てくれてありがとう。父も、喜ぶと思うわ。」

駅から歩いて数分、見覚えのある商店街に入ると、絹香が歩くスピードをふと緩めた。

「先に言っておくわね。うちの父、認知症を患ってるの。なかなか言い出すタイミングがなくて。」

「…そう。えっと、大丈夫なの?」
「ええ。数年前に判明してから、薬で進行を抑えてるから」

ヘビーな話題にも関わらず、絹香の口調は淡々としたものだ。

そのような状況で自宅に伺ってもいいものなのか、という恵子の不安を読み取ったのだろう。絹香は笑顔で付け加える。

「恵子、そんな顔しないで。不思議なことに、昔のことはよく覚えてるのよ。特に、私たちが10代だった頃の記憶は鮮明みたい。実はね、今朝しきりにあなたのことを口にしてたから、是非会わせたいって思ったの。」

「でも私、絹香のお父様にお会いしたことないのに…?」

疑問を口にする恵子に、不思議よね、と絹香は微笑んだ。

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