ヤドカリ女子 Vol.13

ストレス解消のために、いろんな男の家を泊まり歩いていた女は…?「ヤドカリ女子」全話総集編

見た目も仕事も隙がなく、完璧な女。

周囲からは“憧れの的”としてもてはやされるが、そんな人物にこそ、裏の顔がある。…完璧でいるためには、ストレスのはけ口が必要だからだ。

PR会社で多忙を極める28歳の綿谷あんなは、求愛してくるいろんな男のもとを毎晩泊まり歩き、決して自宅に帰らない。

母親の“呪い”に、乱れた生活。そして歪んだ自尊心…。

これは、そんな女が立ち直っていくストーリーだ。

「ヤドカリ女子」一挙に全話おさらい!

第1話:仕事も男も手玉に取る28歳女。彼女が決して自宅に帰らない理由とは

幸い、タクシー乗り場には誰も並んでいなかった。あんなは乗り込んだタクシーの背もたれに身を委ね、瞼を軽く閉じる。じんと目の奥に痛みを感じ、そこで初めて疲れていることに気づいた。

「すみません、ANAインターコンチまでお願いします」

そう、疲れているのだ。PR会社に入社し6年。花形の部署は、広告代理店とクライアントに振り回されるブラックな部署。

― でも私は完璧でいたい。疲れた顔も余裕のなさも、仕事の失敗も皺くちゃな服も、絶対に見せたくない。

だけど完璧でいるためには、ストレスのはけ口が必要なのだ。

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第2話:「こんな姿、見せられない…」男の家を泊まり歩く28歳女が、泣き崩れたワケ

「おはようございます!時刻は午前4時50分…」

眩しすぎるライトの向こうで、早朝の情報番組を担当する女子アナが微笑んでいる。その様子をスタジオで眺めながら、あんなはマスクの下であくびをかみ殺した。

―クライアントの商品が紹介されることになったのはありがたいけど、朝4時にテレビ局入りはきついな。

PR担当として放送に立ち会わなければいけないが、さすがに体の負担が大きかった。昨日、麻布十番に住む男のマンションに泊まれたのが、唯一の救いだ。自宅に帰ったおとといは、結局一睡もできなかった。

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第3話:「家に帰りたくなくて、男の家を転々と…」真実を打ち明けた女が見た、後輩男子の意外な反応

「何でこんなことに…」

部屋の鍵を開ける祥吾の猫背を眺めながら、あんなは思わずつぶやいた。

何かが破裂したように涙腺が決壊し、路上で号泣しているところを彼に助けられたのが40分前。

落ち着きを取り戻した今、タクシー乗り場で泣きながら「あの家に帰りたくない」と駄々をこねる28歳の女の姿を客観的に想像し、思わず身震いする。

男のもとを夜な夜な転々しているとはいえ、あんなにはポリシーがあった。

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第4話:「産まなきゃよかった」完璧を演じる女の破綻した生活に、影響を与えた過去とは

祥吾の部屋は8畳くらい。シングルベッド、小さなソファ、ローテーブル、テレビ。それぞれがうまく配置されて広々として見えたが…。

「…どう考えてもあのベッドで一緒に寝るしかないよね…?」

シャンプーを泡立てて手早く髪を洗いながら、ぎゅっと目を瞑る。そもそも弱った女を家に連れて帰り、家に泊める時点で”そういうこと”を見据えているに決まっているのだ。

そしてのこのこ部屋に上がった私は、文句を言う資格がない。しかし風呂から上がったあんなは、自分の考えに恥じ入ることになる。

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第5話:「頑張って片付ければいいのに」後輩男子の正論に、28歳女が返した意外な言葉

「今日は誰のところに行こうかな…」

スマホをいじりながら、梨花の甘ったるい声を思い出す。今まで梨花は、「綿谷さんみたいになりたいです~」と目を輝かせていた。

あんなもそんな梨花を可愛いと思い、慕われていることで自信を見出していた。

それが、今日の敵意に満ちた彼女の瞳。溜息が漏れる。一緒に仕事の苦楽を共にしてきた私の価値が、同期の男以下だったなんて。

第5話の続きはこちら

第6話:意識し始めた後輩男子が、自分にだけ親切にしてくれる…。そのショックな理由とは

今は土曜日の午前11時。いつもなら自宅ではないどこかで、誰かとブランチを堪能している頃だが…。

「…」

あんなは物が散乱するフローリングに座り、握りしめたスマホの画面を睨んでいた。『浅霧祥吾』のトークルームには、お互いを友達登録するために送りあったスタンプしかない。ふう、と深い息を吐く。男にLINEするのに、こんなに緊張したのは初めてだった。ベージュのネイルに彩られた親指で、ゆっくりと文字を打つ。

『今から電話していいですか?』

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第7話:容姿に触れ、怒鳴るモンスタークライアント。「聞き分けのいい女」を演じた代償とは

あんなは職場のデスクでキーボードの上に指を置いたまま、祥吾の言葉を思い返していた。寝癖が隠せない天パに、垢ぬけない黒縁眼鏡。ひょろりと痩せた体に纏うのは、お世辞にも質が良いとは言えないスーツ。

―『そんなに頑張らなきゃいけないなら、完璧でいることは速攻で諦めます』

あんなを気遣うわけでも責めるわけでもない、本当に何の気もなさそうな普段通りの口調。それがかえって、心をえぐった。

「ゆとり世代のナヨナヨした男の子」という印象だった祥吾は、最初からあんなの虚勢と本質を見抜いていたのだ。

第7話の続きはこちら

第8話:“野菜の洗い方が分からない”28歳女に、後輩男子がかけた衝撃の言葉とは

あんなはマンションの前で立ち尽くしていた。新宿の端、豊島区の境界線に位置する落合南長崎。この場所に来たのは今日で2回目だ。

男の部屋へ行くのに、こんなに緊張するなんて。あんなは右手のバッグの持ち手を握る。

いつも持っているステラマッカートニーのファラベラではなくて、ナイロン製のエコバッグだ。それがさらに心細さを煽り立てる。

「なんでこんなことに…」

第8話の続きはこちら

第9話:「好きでもない男の家に転がり込んでるの」28歳女の告白に、後輩男子の反応は

「綿谷さん、可愛いですね」

そんな祥吾の言葉を思い返して、顔が熱くなる。一体どういう意図で言ったのだろう?確認したいが、プライドが邪魔をして聞き返せない。彼の顔から考えを推測しようにも、分厚い黒縁眼鏡のせいでその表情は読み取りづらい。この私が、こんな垢抜けない後輩男子に心を乱されるなんて。

「そういえばずっと気になってたんですけど」

ひとりぐるぐると思考を巡らせていたとき、祥吾の声が不意に割って入った。

第9話の続きはこちら

第10話:都合よく扱い、弄んでいた男に会社の前で待ち伏せされて…。28歳女が気付いた真実

「一方的に、LINEで『別れる』なんて…」

嗚咽が大きくなり、周囲の視線が痛い。カフェを選んだのは、少しでも人目のある場所じゃないと危ないと思ったからだ。あんなが出てくるまで会社ビルの前で待ち伏せしていたのだから、正気の沙汰じゃない。

「西島さん、ごめんね」

あんなは好奇の視線から逃れるように声をひそめた。

「でも別れるもなにも、最初から私たち、付き合ってなかったよね」

第10話の続きはこちら

第11話:「私の仕事のこと、何も知らないくせに」毒親に初めて反抗した28歳女が迎えた、思わぬ展開

あんなはちらりとデスクの端に置いたスマホに目をやる。仕事が忙しいのを理由に、母親にもいい顔するのをやめていた。返事をしないでいると、怒涛の勢いで連絡が来る。

そのときだった。24時過ぎだというのに画面が光り、あんなは反射的にスマホを手繰り寄せた。

まるでTwitter代わりにされているような、一方的なメッセージの羅列の最後…。新たに送られてきた文章に、思わず眉を寄せた。

『あっちゃん、返事ないけど大丈夫?たくさん連絡してごめんね』

第11話の続きはこちら

第12話:「私もう28歳なのに…」女が、甘やかしてくれる後輩男子に打ち明けた衝撃の告白

「…綿谷さんの人生は、綿谷さんのものですよ」

少しの沈黙の後、祥吾がぽつりと言った。

「綿谷さんは成人した立派な大人で、お母さんとは別の人間だし」
「綿谷家の事情は分からないですけど」と前置きし、祥吾は顔を上げた。

「どんな事情があっても、綿谷さんが一度しかない自分の人生を思う存分楽しく生きて、何が悪いんでしょうか」

第12話の続きはこちら

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