東大卒男子を求めて
翌週の金曜日。
桜子は勤め先であるメガバンクの品川支店を定時退社し、そそくさと身なりを整えて電車に駆け込んだ。
虎ノ門横丁の一角『Ata』に到着すると、カウンター席にいたサークル時代の同期・慶一郎が振り向いて片手を上げる。
「よ、桜子。久しぶり」
「慶一郎、久しぶり!仕事、抜けてきた感じ?忙しいのにありがとう」
「全然。晩メシのついでだし、大丈夫」
虎ノ門の外資系金融機関で働く慶一郎は、海城高校出身・東大経済学部を出たエリートだ。
身長は170cmもなく小柄だが、がっしりとした体躯と穏和な物腰は、おおらかな印象を与える。サークル内でも一定の人気があった。
― 実際は見た目よりもズバズバ物を言うし…、結構、女好きなんだけど。
桜子は心の中で毒づきつつ、慶一郎の隣に座った。2人でサクッと乾杯し、虎ノ門店限定メニューである魚介のアフタヌーンティーを頼む。
「にしても、今日は美由紀ちゃんが来られなくて残念だよ。桜子がセッティングしてくれなきゃ、あの子には会えないからさぁ」
「ごめんね。ついさっき『仕事が終わらない』って連絡来たのよ」
がっくりと肩を落とす慶一郎を、桜子は「また調整するから」となだめる。
今日は桜子と慶一郎、それにサークルのマドンナ・美由紀を加えた3人で会う約束をしていた。慶一郎は「美由紀を呼ぶ」と言えば、いつも二つ返事で飛んでくる。
しかし大手海運会社のエリア総合職として働く美由紀は、輸送トラブルが起きて対応に追われているらしい。急遽来られなくなってしまった。
「んで桜子、なんか話したいことがあったんじゃないの?『男を紹介して』とか?」
「うわ、びっくり。その通りよ」
急に図星を突かれ、桜子はギクリとする。
慶一郎はもちろん、美由紀にも、職場に有力な人がいたら紹介をお願いしようと思っていたのだ。
「まあ、協力してやるよ。桜子は美由紀ちゃん連れてきてくれたり、コロナ前は銀行の女の子集めてお食事会もよくやってくれたしさ」
「ありがとう!最近また東大卒の人と別れちゃって、次を探さないといけないの」
「相変わらずの『ミス・東大生ハンター』っぷりだな、桜子先生は」
あきれたように慶一郎がつぶやく。
サークル内の一部の男たちは、桜子のことを“ミス・東大生ハンター”などと呼んで揶揄する節があった。しかし桜子も慣れたもので、「そうなのよ、相変わらず私は“赤門会”専門の狩人よ」などと受け流す。
「桜子先生のために善処いたしますが…、周りの奴ら、最近急に婚約だの結婚だの言い始めたんだよなぁ。………あっ!!」
慶一郎は急に声を上げて、わざとらしくパチンと指を鳴らした。
「1人いた、彼女募集中の、東大出身男が」
「え、いいじゃない。ぜひぜひ!!」
興奮する桜子に、慶一郎は薄い唇の端を持ち上げて不敵に微笑む。
「桜子とアイツで、どんな化学反応が起きるかわからないけど…面白そうだし、試しに会ってみてくれないかな」
「か、化学反応…?」
意味ありげな笑みに、桜子はうっすらと不安を覚えたのだった。
▶他にも:元恋人のツイートが気になる!?別れて半年後、メッセージを送ってみたら意外な返事が
▶Next:10月23日 土曜更新予定
慶一郎に紹介された男とデートする桜子。男は意外にも…
東京カレンダーが運営するレストラン予約サービス「グルカレ」でワンランク上の食体験を。
今、日本橋には話題のレストランの続々出店中。デートにおすすめのレストランはこちら!
日本橋デートにおすすめのレストラン
この記事へのコメント
コメディとして読めばいいのかな。
実家の近所に両親が東大卒の家庭、子供は中卒。
私立の受験に失敗して、公立で中学の途中から不登校になり、進学せず。そのままずっと仕事もせずに引き篭もり。