キャンパスで繰り広げられるサークル勧誘も、誰でも声をかけられるわけではない。抜群のスタイルとルックスの美女にのみ、スマートなイケメンたちが群がるのだ。
莉々だって、地元ではイケてるグループにいたし、ルックスも悪くはない。でも、田舎の“それなり”では歯が立たない。
―…芽衣だったら声かかったのかな。
賑やぐ並木道を何食わぬ顔で闊歩しながらも、心の中ではそんなことを考えていた。そして、自分の内情を悟られぬよう、必死でクールな自分を装った。
東京のきらびやかさに怖じ気づく、田舎者。
言葉にしてしまえば、あまりにも陳腐な構図。でも、人間が自分を客観視するのは難しい。どこかで見聞きしたありがちなストーリーも、それが現実に自分の身に降りかかると、驚くほどに感情が揺れ動いた。
それでも、莉々は憧れのダンスサークルに入部し、自分の芋臭さを自覚させられながら、彼女たちに近づけるように踏ん張り続けた。
メイクにファッション、人への接し方からものの考え方まで、彼らから学び続けた。レベルの高い人間と一緒に過ごすことで、無意識にそれらが自分に伝染し、どんどん磨かれていった気がした。
―あの日ステージで見た光を、私も放てるようになりたい。
そんな漠然とした思いに突き動かされ、必死にもがいていた。
「莉々もこのあと、一緒に銀座にショッピング行かない?」
サークルの練習帰り、はじめて友人から買い物の誘いを受けたときは嬉しかった。けれど、高価なものをホイホイと購入する彼女たちのような財力はない。
「迷っちゃって、決められない~」
そのうち、優柔不断なキャラクターを演じること覚え、みんなとのショッピングを何も買わずにやり過ごす術を身に着けていった。
華やかな人たちだらけの飲み会に誘われた時だって、そう。みんなで朝まで盛り上がったとしても、次の日は朝から必修の授業を受け、夜には居酒屋でアルバイトをした。
けれど、そんな風に真面目に生きている一面を、友人たちにはひた隠しにした。
特別な素質や環境に恵まれていない自分、そして授業に行かないと単位が取れない要領の悪さが恥ずかしかった。
…それに、そんな自分をあけっぴろげにできない、ちっぽけなプライドも大嫌いだった。
それでも、大学4年間を必死に生きた。
憧れの集団に属せている喜び、だからこそ生じる劣等感、それでも成長できている手ごたえ。
それらの感情を交互に、ときには同時に感じながらも大学生活を謳歌して、少しずつ東京の香りを纏い始めていったように思う。
卒業する頃には、内部生の彼氏もでき、憧れの広告代理店から内定をもらうこともできた。
“KEIO”と書かれたクラッチバッグを片手に9cmのピンヒールで、彼氏とキャンパスを闊歩する。その姿が校舎のガラス窓に反射して見えたときには、何とも言えない得意げな気分を感じたことをよく覚えている。
「ねえ、圭太。うちらなかなかイケてるカップルだと思わない?」
「自分でそんなこと言ってて恥ずかしくないのかよ」
「え~、いいじゃん」
彼の整った顔がちょっとはにかんだ笑顔に変わったときに感じた、何とも言えない満足感。
―一流企業に内定をもらった、イケメン彼氏を持つ、なかなかイケてる慶應ガール。
入学式の自分から、大きく、大きく成長したそのあか抜けた姿、苦労して得たその肩書。それら一つひとつが誇らしくてたまらなかった。
少しずつだが着実に、“東京の女”へと脱皮することに成功していき、東京の煌びやかさの「中」にいる心地よさを知ってしまったのだ。
しかし、このときはまだ知らなかった。苦労して得たこの肩書が、のちに自分を苦しめることになるなんて…。
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憧れの一流企業に入社した莉々が再び目にした、自分の知らなかった世界。
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この記事へのコメント
外部の子でも可愛くて垢抜けてて、内部でもダサい子はいるし
内部の子も、家が資産家だとしてもわりと皆バイトしてるし授業も受けるよ
ライターさんの東京コンプレックスなのかな