茨城で生まれ育った莉々は、地元で青春を謳歌した。
高校時代は一応の進学校に通っていたものの、最大の関心事は常に遊びと恋愛。プリクラ撮って、デートして、ファミレスで友達と永遠におしゃべりして。勉強に費やす時間なんて1秒たりとも惜しいほど、毎日が楽しくて楽しくてしかたなかった。
大親友の芽衣とは、本当に365日毎日一緒にいたと思う。
クラスで1番の美少女なのに、気取ることがなく天真爛漫な芽衣。仲良くなれたことが心から誇らしかったし、彼女との時間が何よりも大切だった。
しかし、転機というものは突然に訪れる。
「来週三田祭行ってみない?慶應って一度行ってみたくない?」
ミーハー心からだったのか、芽衣の突然の思い付きにより、当時高校2年生だった莉々は、常磐線を乗り継いで初めて三田キャンパスに足を踏み入れたのだ。
すると中庭のステージで踊る、ひときわ輝く美男美女たちが目に飛び込んできた。
それは、運命の出会いをといってもいい。数千人の観客の前で感情を爆発させるように舞う彼らの熱量に、莉々の心は鷲掴みにされたのだ。
「…私、慶應行ってこのダンスサークル入る」
ふと気づくと、そんな言葉が口から漏れ出ていた。そして、その日から慶應合格に向け猛勉強の日々が始まったのだ。
当時莉々は、偏差値40にも満たない悲惨な成績。
担任からの「現実を見なさい」という助言を聞き流し、芽衣と遊ぶ時間も切り詰め、当時の彼氏にも別れを告げ、自分の持てる時間すべてを勉強にささげた。
あの集団の一員になりたい、その強烈な思いだけを糧に必死の思いで勉強に向き合ったのだ。
最初は、その目的地点までの果てしなさに絶望するばかりだったが、努力が段々と形になっていく過程、そして目標に少しずつ近づいていく感覚は、徐々に快感になっていった。
自分がクリアしたいと思える高い目標を見つけ、そこに向かってひたむきに努力するとき、人間はここ一番のパワーを発揮するのかもしれない。
そんな努力を積み重ねて“合格”という結果を掴み取ったとき、“嬉しい”とか“達成感”とか、そんな安易な言葉では言い表せないほどの感情を経験した。
ようやく叶えた夢と、「天は人の上に人をつくる」という現実
―やっと、私もあの集団の一員になれる。
入学式当日。
喜々とした思いで足を踏み入れた日吉キャンパスは、新入生とサークル勧誘の上級生でごった返し、地面には無数のサークル勧誘のチラシが桜とともに散らばっていた。
キャンパス中が、何とも言えない高揚感とエネルギーに満ち溢れている。
しかし、莉々はあることに気が付いた。ここにはさまざまな種類の人間がいる、ということに。
18歳にしてハイブランドを身に着ける財力の家に生まれた者、圧倒的なルックスをもつ者、そのいずれをも持つ者。そして、莉々のように彼らの存在にたじろぐ者…。
莉々だって、高校時代はイケてる方だった。けれど、目の前には、自分が生きてきた世界とはまるで違う世界を生きる人間がウジャウジャいる。
その映像に、心がヒリヒリと焼け付く感じがした。
高2のときに見た、憧れの世界―。
その煌びやかさを傍から見つめることと、同じ土俵に立つことは全くの別物だったのだ。
この記事へのコメント
外部の子でも可愛くて垢抜けてて、内部でもダサい子はいるし
内部の子も、家が資産家だとしてもわりと皆バイトしてるし授業も受けるよ
ライターさんの東京コンプレックスなのかな