疲労困憊
「おはよう」
翌朝、7時。千夏が洗面台に向かうと、すでに夫・雅人がリビングで作業をしていた。
「もうお仕事なんて大変だね、すぐに朝ごはん作るね」
顔を洗い、歯を磨いた千夏は、早速朝食作りに取り掛かった。並行して、溜まっていた洗濯物を処理するため、洗濯機を回す。
食パンをトーストし、ウィンナーを焼いて簡単なサラダを添えるだけ。それでも、準備には15分程度かかる。
「出来たよ!どうぞ〜」
千夏は、仕事中の雅人の邪魔をしないように、テーブルの隅っこに持って行った。
「ありがとう」
そう言った雅人は、千夏を待つことなく、猛スピードで食べ始め、5分もしないうちに「ごちそうさま」と、フォークを置いた。
「コーヒー、淹れてもらっても良い?」
−え!?私、まだ食べてないんだけど…。
食べ終わったお皿を下げることすらしない雅人に内心ムッとしたが、こんなことで朝から喧嘩したくはない。
千夏は「了解!」と無理やり明るく答えて、コーヒーメーカーのセッティングをする。
朝食のお皿洗いを終え、ようやく化粧でもしようとポーチを出した矢先、今度は洗濯終了の合図を知らせる音が鳴った。
「はああああ」
思わず、大きなため息が漏れてしまう。
普段作らない朝食も面倒だし、雅人がいるので日課のルンバもかけられない。
いつもとは違うペースに、ストレスを感じる。千夏は仕方なく、洗濯物を干しにお風呂場へと向かった。
浴室乾燥のスイッチを入れ、一通りの家事が終わった時には、時刻は8時10分を回っていた。
「うっそ、もうこんな時間なの!?早く準備しなくちゃ…」
会社の始業は、8時半。結局、化粧する暇もなく、すっぴんのまま、急いで仕事の準備に取り掛かる。
PCを手に、千夏の脳裏にひとつの疑問が過ぎった。
−私、どこに座ったら…?
1LDKのこの家は、リビング兼ダイニングの1部屋と寝室しかない。テーブルに関して言えば、雅人が座っているダイニングテーブル、1台しかないのだ。
「失礼します」
すでに置かれていた雅人の書類を少しだけずらして、千夏は自分の仕事場所を確保した。
「え、もうこんな時間…」
ふと部屋の時計に目をやると、時刻は11:58と表示されているではないか。午前中、結局PCの設定や会社システムへの接続がうまくいかず、メールの処理もろくに出来ないまま終わってしまった。
とはいえ、あと2分で昼休み。昼ご飯作りに取り掛からなければならない。
本当は雅人に任せたいところだが、彼は料理が全く出来ないから難しいだろう。
12時になったと同時に、千夏は料理に取り掛かる。冷蔵庫にある具材で、ペペロンチーノを作ることに。
「お昼ご飯、出来たよ」
20分後、千夏が声をかけると、雅人は「ありがとう」と、PCを一度閉じた。
だが、しかし。朝食同様、超高速スピードでパスタを平らげ、5分後には「ごちそうさま」と、再びPCに向かい始めたのだ。
−昼休みくらい、休憩したって良いじゃない。
千夏は、雅人の超仕事モードに文句の1つでも言ってやりたい気分だった。
彼が超仕事人間であることは百も承知だが、せっかく2人の時間が増えたのだ。もう少し会話したりしても良いではないか。
そんな不満を押し殺しながらパスタを食べ終え、食器を洗い、午後イチのコーヒーを淹れた頃には、時刻は12時40分を回っていた。
少し休みたくてソファでゴロゴロしてみるが、雅人のキーボードを叩く音が不快なほど耳に響く。だが、寝室に移動して休むには時間が短すぎる。
仕方なくダイニングテーブルに戻った千夏は午後の業務を開始した。だが、午後も午後で、やりたいことの半分も出来ないまま終業の時間を迎えた。
−明日はちょっと早く起きてやらないとだな。
今日の反省をしてみるが、ぼーっとしている暇はない。夕食の準備に取り掛からなければならないのだ。
加えて、お風呂の掃除や乾いた洗濯物を畳む。「ふぅぅぅぅぅ、疲れたぁ」1日の在宅勤務で、どっと疲れた。
−在宅勤務初日。クタクタだ。この生活、いつまで続くんだろう…?
そんな疑問が、千夏の胸に不吉に浮かび上がった。
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この記事へのコメント
日本
リモートだと運動量少ないしそんなに食べることに必死にならなくても良いかと。