SPECIAL TALK Vol.114

~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~


仕事が長く続かず、「ダメ人間」だと思い込む


金丸:学校は、地元の公立ですか?

北村:はい。高校まで近くの学校で。高校を卒業したあと就職したんですが、なかなか続かず。

金丸:どんなお仕事を?

北村:いろいろやっていて、実は5回ぐらい転職しています。巫女さんなんかもやりました。

金丸:巫女さん!?なんでまた?

北村:なんか面白そうだなと思って。

金丸:でも続かなかった。それはなぜですか?

北村:若かったから、自分のことがよく分かってなかったんだと思います。もともとやんちゃ娘なので、巫女さんは合わないですよね。

金丸:そうだった。じっとしていられないタイプでしたね(笑)。

北村:それでも1年くらいはやりましたけど。あとは、洋服屋で販売の仕事とか。

金丸:それも向いてなかった?

北村:好きではあったんですけど、どうも、そんなに長く同じところで勤めたいという気持ちにならなくて。パソコン教室に通って資格を取って事務の仕事もしましたが、やっぱりピンと来ないというか、やりがいを感じないというか。結局、どこも長続きせず、「私はダメ人間だなあ」と思うように。

金丸:それでダメ人間だなんてとんでもない。経営者にも何度も転職した結果、「会社勤めは向いていない」と気づいて起業した人だってたくさんいますよ(笑)。北村さんだって、その期間があったからこそ、ねぶた師にたどり着いたわけですよね。

北村:それはそうですね。

金丸:日本では、大学を卒業すると同時に企業に就職しますが、2年くらいインターンシップでいろいろな経験をして、自分に合う仕事、好きな仕事を見つけてから就職する方がいいんじゃないかと思います。

北村:確かに、それができたらいいですね。「生涯続けられる仕事を見つけたい」と思って、アートやデザインに関わる仕事ができないかも模索したんですけど。

金丸:その時は、ねぶた師になることは考えなかったんですか?

北村:思ってもみなかったです。ただ、私が行き詰まっていた時期に、父がねぶた師を続けられなくなるかもしれない事態に陥りまして。

金丸:何があったんですか?

北村:ひとつは、制作するねぶたの台数が減ったことです。それまで3台受け持っていたのが、1台に減りました。

金丸:それは何か理由があって?

北村:不景気の影響ですね。ねぶた祭り用のねぶた制作は、それだけではほとんど儲かりません。3台受け持っていたから、父は私たち家族を養えていたけれど、1台ではとてもじゃないけど食べていけません。さらに体調不良も重なって……。

金丸:それはお父様も苦しかったでしょうね。

北村:私にとってもショックでした。生まれてからずっと身近にあったねぶたが、自分の生活からなくなるかもしれない。その時初めて、自分にとってねぶたがどれだけ大事なのかに気づきました。

金丸:あまりにも当たり前過ぎて、逆に気づかなかったんですね。

北村:それで、どこまでできるか分からないけれど、ねぶたづくりに携わりたいと考えるようになりました。

父を手伝ううちに白羽の矢が立つ


金丸:では「私もねぶた師になる」とお父様に宣言したんですか?

北村:いや、実は父に直接「ねぶた師になりたい」と言ったことは一度もありません。

金丸:えっ!?どういうことですか?

北村:私の前にも女性のお弟子さんがいらっしゃったんですけど、その方は長く続かなかったんです。だから「女は向いていない」みたいな空気があって。

金丸:決めつけてしまっていたんですね。それまで女性のねぶた師はいなかったんですか?

北村:いません。私が「史上初」と言われています。

金丸:すごいですね。そもそものお話ですが、ねぶた師って勝手に名乗れるわけではないですよね。

北村:一人前になるには、10年くらい修業が必要だといわれています。それに、祭りのためのねぶたを作るには、スポンサーが必要ですし。

金丸:「この人に頼みたい」と望まれるような技術と人柄がないといけないんですね。でも、お父様に弟子入りしようにも、言い出せない雰囲気があった。いったいどうやって突破したんですか?

北村:何も言わず、父の制作現場に通い続けました。

金丸:勝手に押しかけた(笑)。「弟子にして」ではなく、「ちょっと手伝うよ」みたいな感じですか?

北村:手伝うとも言わず、ただ通って。父は何も聞いてきませんでしたが、多分不思議に思っていたかと。

金丸:そりゃあ、不思議に思うでしょうね(笑)。そうやって、いろいろ手伝いながら、実質は修業を始めたと。

北村:といっても絵を描くことはなくて、針金の骨組みを組んだり、色付けを手伝ったりくらいでしたけど。

金丸:お父様が心を開くの待っていたんですね。

北村:手伝いに行ってから4年目に、私に制作依頼が来たんです。

金丸:えっ、お父様を超えて?

北村:いえ、それは父からでした。ねぶた師のお弟子さん5人くらいに制作を任せる「後継者育成ねぶた」というサイズの小さなねぶたがあるんですが、それを作ってみないかと。

金丸:毎日通って手伝ううちに、お父様もチャンスを与えようと思われたのかもしれませんね。それで、結局引き受けたんですか?

北村:はい。制作中には父からも指導を受けました。ただ、出来上がったねぶたを見た父は、何もコメントしなかったんです。

金丸:ということは、家族内審査はイマイチだった。

北村:私自身、納得がいっていなかったんですが、父の反応を見て「ああ、やっぱりダメなんだ」と察しましたね。

金丸:周りからの評価はいかがでしたか?

北村:団体の会長も私の作品を見て、「名人の娘なのに、なんて下手くそなんだ」と思ったそうです。

金丸:それは悔しいですね。

北村:これが自分の実力だと思われたくなくて、そのあとすごく勉強して。再度、ねぶた制作のチャンスをいただきました。

金丸:期間はどのくらい空いていたんですか。

北村:3ヶ月くらいですかね。

金丸:えっ、すぐじゃないですか!それで、今度はどうでした?

北村:団体の会長は「育成ねぶたの時と比べて、すごく伸びしろを感じた。育てていきたい」と思ってくださった、と聞いています。

金丸:それは良かった。きっとお父様も一安心したでしょう。

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