萌のインスタに届いたメッセージには、こう記されていた。
“#村上開新堂”で見ていたら、偶然このアカウントを見つけてびっくり!ここに写ってるのって、萌とさくらと、恵子だよね?久しぶりー!“
「って、名前言ってくれないとわかんないじゃん。アカウント名Silklady618か…。私のフォロワーにもいないわ。」
さくらがスマホをいじりながら、あきれたように口をとがらせる。
「この人のページ非公開だし、投稿も見れないね。でもたぶん同級生だよねー?だれだろー。聞いてみよっと。」
萌が慣れた手つきでメッセージの返信をしている最中、恵子も自分のインスタのフォロワーに該当の人物がいないか確認してみたが、そんな人物はやはり存在しなかった。
―silklady618か…。シルクレディ。シルクって…絹?
…絹。
突然ある人物の名前が頭に浮かび、恵子は息をのんだ。それと同時に、萌の叫び声が部屋中に響き渡ったのだ。
「ヤバい!佐久間絹香、覚えてるでしょ?このメッセージ、絹香だって!」
結局、萌の夫と娘が外出から帰ってくるぎりぎりまで、三人は絹香の思い出話で大いに盛り上がった。
それだけでは足りず、家に戻ってからも、突然記憶の中に現れた友人の話題でメッセージボードがすぐに埋まっていく有様だ。
佐久間絹香は、高校2年の始業式の日に、何の前触れもなく転校していった。優等生として知られていた絹香が突然学校を去るという一大事件は、年頃の女生徒たちの興味を大いにそそった。
それまで、萌、さくら、絹香、そして恵子は、仲良し4人組として知られていた。そのため、突然いなくなった絹香のことを、周りから根掘り葉掘り聞かれたものだ。
しかし、恵子はもちろん、中学からの親友だったという萌やさくらすら、その理由を知る由もなかった。メールや、当時皆が利用していたmixiでの連絡もつかず、家を訪ねたときには既に、一家は引っ越した後だった。
きっとなにか事情があるのだろうと3人で話し合い、絹香がいつか話してくれるまでそっとしておこうと、そう決めた。
それ以降、受験や恋愛でそれぞれ忙しくなり、絹香との思い出はどんどん記憶の片隅に追いやられていったのだ。
『絹香から日曜OKって返事きました!ヤバイ!何年ぶりよー!』
萌からのハイテンションなメッセージに『よかった!楽しみだね!』と返し、恵子は日曜に着ていく服でも選ぼうとクローゼットに向かう。
ー10年ぶりかあ…。
お気に入りの洋服がずらりと吊るされたウォークインクローゼットを見渡しながら、恵子はふと考えた。
ーそれにしても、どうしてあの時、絹香は急に消えたんだろう。彼女に一体、何があったの?
それに、10年前、まるで何かから逃げるように姿を消した絹香が、なぜ今頃になって自分たちの前に現れたのだろう。
なんだか、妙な胸騒ぎがするのだった。
この記事へのコメント
10年前消えた子の目的って、なんだろう。誰かへの復讐とか…?
続きが楽しみな連載。