非日常が魅力的なのは…
「…わかったよ。小学校の同窓会があったんだけど、そんな風に疑うなら断って家に戻るから。それでいいだろ?」
「同窓会なら、なんで学会だなんて嘘つくのよ。だいたいあなた同窓会なんて参加するキャラだっけ?その設定自体、怪しすぎるでしょ」
「同窓会にキャラとか関係ないだろ。とにかく、もう帰るから」
…ダメだ、これは。
まったく追及の手を緩めようとしない妻。
完全に白旗を揚げた僕は、店にキャンセル料を支払ってでも予約を取り消すことを決意した。
そして妻との通話を終えてすぐ、木下百合に連絡をする。
“ごめん。妻に疑われてて、今日は家に戻らないと。この埋め合わせは別の機会に必ず!本当にごめん”
約束時間直前のドタキャンなんて、本当に申し訳ないと思う。しかしこの時の僕にはそれ以外の選択肢がなく、ただただ謝るしかなかった。
急いで送ったメッセージは、瞬時に既読となった。
しかし彼女からの返信がくることはなかった。…その夜も、次の日も。
それから数日は、せっかくのチャンスをふいにしてしまった自分が心底情けなく、どうにかして再び木下百合と会う方法はないだろうかと考えたりもした。
けれども1週間も経てば、僕は彼女のことなどすっかり思い出さなくなってしまった。
それもそうだ。
木下百合は僕の日常にちょっとした華を添えてくれはしたが、別になければないで困ることもない。非日常はあくまで特別だから魅力的なのであって、日常を失ってまで求めるものではないのだ。
いつも通り医院での仕事を終えて家に戻ると、料理好きの妻が用意してくれる食事と可愛い娘が待っている。
冷静になってみれば、この当たり前の幸せこそが僕の帰る場所なのだ。
そう改めて痛感した僕は、むしろあの時電話をよこした妻の勘の良さを誇らしくさえ思うのだった。
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加藤誠一にメッセージを送った木下百合の目的は、一体何だったのか?
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この記事へのコメント
「さっき院長夫人から探り入ったんだけど。」
「院長、浮気バレてるwww」
ってバカにされてそう。