想定外妊娠 Vol.15

「あと2週間で、赤ちゃんに会える…」。臨月を迎えて幸せ絶頂の妊婦が、最後に直面した予想外の大事件

「結婚なんかしない」

そう、言い張っていた。

今の生活を手放すなんて考えられない。自由で気まぐれな独身貴族、それでいいと思っていた。

仕事が何より大事だと自分に言い聞かせ、次々にキャリア戦線を離脱してゆく女たちを尻目に、私はただひたすら一人で生きてゆくことを決意していたのに―。

”想定外妊娠”に戸惑っていたのもつかの間、千華ははじめてのエコーで心を揺さぶられ、たとえ独身だろうと産む決意を固める。

元カレ・ショーンとすれ違い続けていた千華は、憧れの先輩から言われた一言をきっかけに自分の本心に気づき、ついに彼と結ばれた。

だが真っ先に報告した親友・舞子は浮かない顔だった。さらに、ショーンの母・妙子は辛辣な言葉で千華を絶望の底へと叩き落とした。

職場でも、妊娠をきっかけに
信頼していた部下・徳永とギクシャクしていたが、彼と本音でぶつかりようやく和解。

そしてついに臨月を迎えた千華だったが…。


AM 8:34


「母さんの様子がおかしい。」

妙子さんとの電話を終えたショーンが、深刻そうな顔をしてスマホを握りしめ、寝室から出てきた。

私は無事に徳永との引き継ぎを終わらせ、産休を迎えたが、ショーンの母である妙子さんとは絶縁状態が続いている。

ある時を境に、妙子さんからショーンへの連絡はグッと減っていた。だけど、さすがに予定日を二週間後に控えている状況なのだから「様子を聞いてみたら?」と、私が提案したのだ。

「様子がおかしいって、どういうこと?」

「覇気がないと言うか、千華の心配をしてた。”まだ寒いから、妊婦は風邪をひかないように気をつけろ”って。」

「…え?妙子さんが!?」

以前、結婚の挨拶をするために顔を合わせた時は、「みっともない」だの「前みたいにすぐ離婚するな」だの、散々な言われようだった。それ以降も一切彼女は、私の話題には触れることもなかったのに。

「まさか…妙子さん、体調崩したのかな。」

そう口に出さずにはいられなかった。

その考えはショーンも同じだったようで、朝食代わりにスムージーを作ろうとフルーツを詰め込んだミキサーを見つめながら、黙り込んでいる。

妙子さんは病に侵されている。それも、ショーンの話では一切の治療を拒みながら、独りで東銀座のマンションに引きこもっているのだ。倒れてしまったとしても、すぐに気づく人は周りには居ない。

「お昼を食べてから、様子を見に行ったほうが良いんじゃない?」

予定日を二週間後に控えていた私は、最後の外食をGINZA SIXの『THE GRAND 47』で食べようと、ずいぶん前から約束していた。近くに住む妙子さんの顔を見に行けば、ショーンも私も少しは安心して出産予定日を迎えることができるだろう。

「ありがとう、ランチのあとに寄ってみようか。千華はエントランスで待ってていいから、ほんの少し顔を見たら帰ろう。きっと大丈夫だ、いつものことだよ。」

まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、ショーンは申し訳なさそうに微笑むと、ポコポコと頻繁に動く私のお腹を撫でて優しくキスをする。

土曜日の朝のことだった。

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