想定外妊娠 Vol.7

「みっともないわねぇ」。“授かり婚”に浮かれる32歳を、一瞬で絶望のどん底へ突き落とした強烈な女

「結婚なんかしない」

そう、言い張っていた。

今の生活を手放すなんて考えられない。自由で気まぐれな独身貴族、それでいいと思っていた。

仕事が何より大事だと自分に言い聞かせ、次々にキャリア戦線を離脱してゆく女たちを尻目に、私はただひたすら一人で生きてゆくことを決意していたのに−。


”想定外妊娠”に戸惑っていたのもつかの間、千華ははじめてのエコーで心を揺さぶられ、たとえ独身だろうと産む決意を固める。

元カレ・ショーンとすれ違い続けていた千華は、憧れの先輩から言われた一言をきっかけに自分の本心に気づき、ついに彼と結ばれた。

だが真っ先に報告した親友・舞子は浮かない顔で、義母への手土産のアドバイスもそっけないものだった。


「すごい!今動きましたよね!?」

ショーンは私の手をしっかりと握り、前のめりになりながらモニターに写る子供の姿を見つめている。

恵比寿のクリニックで二度目の検診を受けることを告げると、ショーンは一緒に行くと言って聞かなかった。

ほんの数日先の予定さえ不確定だったはずの男が、約束した場所で約束した時間に立っている。それだけで私はひっくり返ってしまいそうだ。

「では、母子手帳と妊婦健康診査受診票を区役所で受け取ってくださいね。」

柔らかく微笑む先生の美しい横顔は、はじめての検診のときと変わらず私を安心させてくれる。

診察室を出てからも、ショーンはそわそわと落ち着かない様子でエコー写真を眺めていた。なんだかむず痒くて、幸せな時間だとつくづく思う。

だが、妊婦の体というのは想像以上に不便だ。幸せを噛みしめるよりも先に、いつ襲ってくるかわからない吐き気やめまいに怯えながら歩く。

検診のあとに、大好きな『ウェスティン デリ』でシュークリームを食べようと約束していたのに、私の体はそれを受け付けようとはしなかった。

結局その約束は果たせないまま、近くのスーパーでみかんゼリーとアボカドを買い込みショーンのマンションへ向かった。

「ゼリーとアボカド?変な組み合わせだなあ。」

そんな呑気なことを言うショーンに、この辛さを説明するのは骨が折れる。私だって普段だったらこんな買い方はしないのだから。

「これしか、食べられそうにないのよ。」

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