想定外妊娠 Vol.10

想定外妊娠:家族のぬくもりを知らない男が、父になる覚悟を決めた瞬間。彼が目に涙を浮かべたワケ

「結婚なんかしない」

そう、言い張っていた。

今の生活を手放すなんて考えられない。自由で気まぐれな独身貴族、それでいいと思っていた。

仕事が何より大事だと自分に言い聞かせ、次々にキャリア戦線を離脱してゆく女たちを尻目に、私はただひたすら一人で生きてゆくことを決意していたのに―。

”想定外妊娠”に戸惑っていたのもつかの間、千華ははじめてのエコーで心を揺さぶられ、たとえ独身だろうと産む決意を固める。

元カレ・ショーンとすれ違い続けていた千華は、憧れの先輩から言われた一言をきっかけに自分の本心に気づき、ついに彼と結ばれた。

だが真っ先に報告した親友・舞子は浮かない顔だった。さらに、ショーンの母・妙子は辛辣な言葉で千華を絶望の底へと叩き落とし、信頼していた部下・徳永さえも冷淡な反応をしめす。そんな中、千華はついに会社で意識を失ってしまい…。


「しばらく休め。まだ夏休みを取ってないだろう。」

職場で倒れてしまった私に真っ先に電話をよこしたのは、仕事が忙しいフィアンセでも、心から信頼する親友でも、仕事を押し付けてしまった部下でもなかった。

部長は、電話越しに何度も「安心しろ、こっちは大丈夫だから」と繰り返す。

「本当に、申し訳ありません…。」

点滴の落ちる音がポタポタと響く個室で、私は力なく答えた。

電話を切ったあと不意に病室の窓に目を向けると、すっかり日が落ちて、クリニックの通り沿いにタクシーが列を作っているのが見える。

「夏休みかぁ…。」



こうして私は、急遽2週間の夏休みを取得することになってしまった。

最初の2、3日は、自宅とクリニックを往復して点滴を打たれるだけの日々が続いていた。

断固として入院を拒否した私に、先生が提案したのは「毎日、点滴を打ちに通院する」ということだ。

会社で倒れた日に点滴をしてもらってから、体調はかなり楽になっている。吐き気止めも同時に処方してもらい、食べられるものも増えた。

けれど、家に帰ればたった一人。頭の中を巡るのは仕事のこと、体調のこと、義母のこと…。その全てから、一度距離を起きたかった。

—実家、帰ろうかな…。

カレンダーはとっくに9月になっているけれど、相変わらず夏の熱気を残したままの東京を生き抜く精神力など、今の私にはほんの少しも残っていないのだ。

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