タクとジェイの運命の出会い
―やっぱ、グラビティ―ダムはいいなぁ。
大学院で微生物研究に熱心になり、その生態系に大きくかかわるダム巡りは、僕の趣味となっていた。
「滝畑ダム」と書かれたダムカードをゲットして帰ろうとした矢先、僕はあいつの目線に気づいた。
「すみません。ダム、詳しいすか?」
そういいながら近づいてくる男は、背が高く彫りの深い顔立ちで、モデルといっても通じそうだ。
「オレ、初心者で、ちょっと教えてくれたら嬉しいんすけど…どうすか?」
その慣れ慣れしさに少々驚いたが、同年代の“ダム・フレンド”ができるかもという淡い期待で付き合ってやることにしたのが、すべての始まりだった。
◆
「いやー助かったよ!乾杯!」
固辞したにも関わらず、イケメンの押しに負けて二人で飲むことになってしまった。
この僕が気の利いた店など知るはずもなく、断られること前提で家の近くのお好み焼き屋チェーンを提案したのに、予想に反して快諾されてしまったのだ。
「えっと、速水さんは…」
「あ、慈英って呼んでよ!みんなはジェイって呼ぶからそれでもいいよ!」
キラリ、という擬音が似合う笑顔でビールを飲みほすこの男は、どうやら東京からきたお坊ちゃまらしい。
聞いてもないのに「小学校から慶應だ」と言っていたし、枚方までタクシーで行こうと提案してくる金銭感覚も、僕のような庶民には理解できないものだった。
(東京では小学校から慶應というのはお金持ちが多いらしい。タクシー代2万円を、見たこともない色のカードで支払っていた。)
どうやら彼は、父親が立ち上げた会社の跡取り息子で、視察か何かでとりあえずダムに訪れたようだ。しかし何を見たらいいかわからず、ダムカードをファイリングしていた僕なら詳しいだろうと声をかけたそうだ。
また会って数時間で、彼はかなりの“人たらし”であることが分かった。
「おっ、お姉さん。焼くの上手っ!」
「ありがとうございますっ♡」
お好み焼きを焼いてくれるバイトの女の子の顔が真っ赤に染まり、いつもより頻繁にひっくり返しているように感じる。
「でさ、タクは京大でなんの勉強してるんだっけ?」
イケメンのお坊ちゃまの質問には、多少馴れ馴れしくとも答えなくてはならないだろう。
「生物学…おもに微生物です。」
ぱっとジェイの顔が明るくなり、子供のように身を乗り出す。
「まじかよ!すげーよオレ!超ラッキー!」
こいつは何をいっているんだろう。バイトの女の子も驚いてるじゃないか。
「タク!オレと一緒に会社やらない?ていうか、やろう!」
この記事へのコメント
なんかほっこりするキャラクターの主人公だな♡連載楽しみです。