お金を使って貰うのが、愛されている証でしょ?
ー実家に戻ってきてるの?じゃあお茶しようよ♪
電話の相手は、幼馴染の恵梨香だった。
家で少しゆっくりしようと思っていたのだが、恵梨香の勢いに押され結局お茶をすることになってしまう。
小学校から大学までずっと同じ私立の女子校で過ごしてきた恵梨香は社交的でお喋りで、とにかくいつもアクティブだ。どちらかというと控えめで聞き役の真希は、つい恵梨香のペースに合わせてしまうことが多く、それは結婚して妻になった今も変わらない。
荷物を置き、母親に出かけることを告げてから軽く身なりを整える。肌の手入れには気を使っているせいか、ハリも艶も申し分ない、と自分では思う。
「お夕飯までには帰っていらっしゃいね」
まるで少女時代と変わらない声がけをする母に少しだけ苦笑しながらも、真希はホテル椿山荘東京の『ル・ジャルダン』に向かった。
「お待たせ!」
当たり前のように10分ほど遅れて席に着いた恵梨香は、相変わらず華やかな美貌だ。イギリス人の父親を持つ恵梨香の目は吸い込まれそうなほど大きく、上質なエクリュベージュのシルクのような肌にもますます磨きがかかっている。
髪をかきあげる恵梨香の腕に、キラリと光るピンクゴールドの華奢なブレスレットが目に入った。
「わぁ、素敵なブレスレット!」
真ん中にダイヤをあしらった気品あるオルキデモチーフだが、儚げなピンク色によって可憐さも醸し出すデザインで、まさに恵梨香にピッタリだ。
「うふふ。この間ね、雅治がお誕生日にカルティエで選んでくれたのよ。」
そう言われて、真希は結婚式で見た惠梨香の夫、雅治の整った顔を思い出す。確かプロポーズは『ジョエル・ロブション』で、記念日には欠かさず贈り物を選んでくれるという、まさに女性誌に出てくるような完璧な夫。
今日2回目の、大きなため息が出た。
「いいわねぇ…。」
あからさまに落ち込んだ様子の真希を見て、「どうしたの?」と訝しげに尋ねる恵梨香に、思い切ってマンネリ化している今の夫婦生活のことを相談してみる。
結婚記念日やホワイトデーも真希が訴えなければ危うくスルーされかけてしまうこと、新婚当初に比べ、夫がどうも自分への愛情表現を「手抜き」しているように思えてしまうことだ。
「え...真希、それってかなりヤバイわよ。」
大きな目を見開き、恵梨香は心から心配しているような表情を作る。
「ヤバイ」と言われたことで、真希の心臓はドクン、と音を立てた。
「だって真希のご主人、お金ないわけじゃないじゃない。それなのに記念日やイベントに妻にお金をかけないなんて、おかしいわ。他で使ってるのかもしれないわよ?」
「で、でも...ブランド物を買ってくれないわけじゃないのよ。」
恵梨香の発言に、真希は戸惑いを隠せない。必死でCHANELの化粧品を買ってもらったことなどをアピールした。
「違うわよ、真希。大事なのは夫の収入に対しての、妻への還元率でしょ。私たち妻にとっては、夫にいかにお金をかけて貰うかが、愛されてる証じゃない? それなりに稼いでいる夫からのプレゼントがCHANELの化粧品だけなんて、おかしいわよ。」
あんまりな指摘だが、どこか心当たりがあるだけに、真希は思わず返す言葉を失ってしまうのであった。
▶NEXT:4月20日金曜更新予定
「買ってもらったもの」だけでは済まない、別次元の愛されマウンティングとは
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事へのコメント
お金遣ってくれる=愛されてるは短絡的にも感じる。他にも遣ってるのを誤魔化されてるかも知れないし。
私はモノくれるより、いつも食器洗ってくれたり、月に一度は「僕が好きだから」と細かい所まで掃除してくれたり、こちらが疲れているのを察して「今日は○○の焼き鳥食べたいな。夜は外で食べよ」...続きを見るとか言ってくれる人の方がいいわ。