2017.07.30
恋人という存在が、2017年現代の東京では、曖昧になってきている。
その人とオフィシャルな関係になる気がなくとも、その人に「彼氏・彼女」ができると、少しだけ胸が苦しくなる。
決して都合の良い関係ではない。だが、人生をかけて愛したいというのも違う。
多様化した愛の形が、今、顕在化してきている。
愛してるとは違うけど、愛していないとも言えない。
あなたの身にも、覚えはないだろうか?
そう、それもまた1つのLOVEである。
「それも1つのLOVE」一挙に全話おさらい!
第1話:優しいだけの彼じゃ、満たされない。刺激を求める心が招く運命の悪戯
夢とも現実ともわからぬリアリティをもって、突如蘇った懐かしい記憶―。遮光カーテンが引かれた1DKの部屋。薄暗いベッドの上で目を覚ました桜井奈々(27歳)は、甘酸っぱい感情が胸に広がっているのに気が付いて苦笑した。
「欲求不満か、私ってば…。」
それは、10年以上前の、淡い恋の記憶だった。始まりもせず、終わった恋の。
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第2話:男の本能を巧みに刺激する、小悪魔系美女と過ごした特別な夜
あきらの怯まぬ追及に、翔平は言葉を詰まらせる。美玲は、あきらと同じく大学ゼミ仲間だ。しかしただの友達…ではない、と思う。
“友達でも恋人でもない、だけど特別な関係”
翔平と美玲の関係は、掴めそうで届かない、限りなく近いのに重なることは決してない。そんなもどかしい距離感で、長年続いている―。
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第3話:これは宣戦布告?絶妙な見切りで彼の手を写した、あの女の意図
「これ…、翔平くんのことじゃない?」
さゆみの声で我に返る。さゆみはさっそく衣笠美玲のInstagramをチェックしているのだった。促されてスマホ画面を見ると、フレンチネイルを施した美しい指でグラスを傾ける写真が投稿されており、#お誕生日 #大切な人 というハッシュタグがついていた。
―大切な人…?
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第4話:突然婚約した”特別”な女性。それでもなお抗えぬ、彼女からの誘惑
「翔平、私行くところがあったわ。」
涼しい顔で、彼女は手をひらひらと振る。
―この時間から、どこ行くんだよ?
振り返りもせずタクシーに吸い込まれる美玲に、心の中で問いかけるが、実際に口から出るのは溜息だけだ。そうやってひとり残された翔平が、奈々に繋がる糸を探し始めたのはほとんど無意識だった。
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第5話:ステディな彼との同棲を決めたのに。忘れられない男と密会してしまった、女の衝動
優一との結婚で得られる安定は、浮き草の如き不安定な日々を送る奈々にとって、救いの手に違いなかった。
「まあ、それが正解よ」
悟ったように、そう言うさゆみに小さく頷き、奈々はスマホに手を伸ばす。目を落とし、画面を確認した奈々は…そのまま、固まってしまう。
「…どうしたの?」
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第6話:ようやく手に入れた高嶺の花は、近くで見るとキレイじゃなかった?
理由なく奈々に会いたくなった。しかし説明のつかぬその気持ちは、やはりただの身勝手なのだろうか。
実際、このまま彼女と一線を越えた後、彼氏・彼女の契約を交わす気など、翔平にはなかった。心の隅で嫉妬はしたが、先ほど存在を知った奈々の彼氏を怒らせるのも、忍びない。
縋るように見つめる彼女の瞳から逃げるように、翔平はそっと、奈々の手をほどいた。
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第7話:同棲が決まり、見えてきた“安定した未来”。だがそれはただの“平凡な未来”だった
「私は、奈々が優一さんと今後末永くうまくやっていくためにこそ、翔平くんが必要だって言っているの。それも、1つの愛だと思うんだけどな」
さゆみの論理はいつも常人とかけ離れていて、到底理解できない。だから奈々は今回も、彼女の忠告を聞き流した。
「欲望を1人の男で満たそうとするから、破綻するのよ」
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第8話:23時過ぎ。「今から逢おう」衝動的に口にした男の、胸の内
「えー!翔平くんって、まさかあの翔平くん?!」
彼女は、アイラインとマスカラで確実に2倍の大きさになっている目をさらに大きくし、その後、何がそんなに可笑しいのかというくらい大げさに笑い出した。そして呆気にとられる翔平をまっすぐに見据え、含みのある口調でこう続けるのだった。
「やだ、まさか翔平くんに会っちゃうなんて。わたし…桜井奈々の同僚なの」
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第9話:2017年の東京。純粋に恋愛感情だけで結婚したカップルはどれだけ存在するだろう?
“優一を裏切ってはいけない”というわずかながらの理性も、断るという行動にまではたどり着けず、奈々はただ黙っていた。しかしそれを、翔平はイエスと理解したようだ。
「赤坂に着いたら電話して」と言われ、それがつまり何を意味するかは奈々だって理解していた。 だから電話を切った後も、オフィスを出てからも、奈々は一応、迷ってはいたのだ。
しかし結局、優一と暮らすマンションがある渋谷ではなく、翔平が待つ赤坂に、足が向かってしまった。
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第10話:無理はしたくない女と、無理をしてでも逢いたい女
「今夜、逢いに行ってもいい?」
奈々から届いたLINEは、翔平に小さな罪悪感を運ぶ。今日は同期のあきらと飲みに行く約束をしている。あきらと飲んだ後に会っても良いのだが、明日からのマレーシア出張に備え、できれば早く休みたい。
奈々と、一緒の時間を過ごしたい。ただ、そのために自分が無理をしたり、何かを犠牲にするのは違う。美玲に対する気持ちとは、そこが決定的に異なるのだった。
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第11話:バランスを崩した恋は、苦いだけ。幸せを掴む女と、逃す女の差は?
美玲の結婚相手は非の打ち所のない男性だ。しかし、選ばなかった未来...翔平への未練や後悔の念は、本当に1ミリもないのだろうか。
ヘアメイクを完了した美玲が、奈々を振り返る。目力が増し、初対面の印象よりぐっと強さを感じさせる。そして美玲は噛みしめるような口調で、ゆっくりとこう言った。
「私は、幸せになるって決めているの」
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第12話:もう二度と触れられない高嶺の花。彼女が最後に告げた、残酷な言葉
あきらは、翔平と美玲の過去10年に及ぶ「特別な関係」の終焉を“タイミング”の一言で形容したが、翔平もそれをあえて否定する気もない。
しかし美玲が自分を選ばなかった理由が“タイミング”などではないことを、翔平は知っている。手に入れたいなどと、触れたいなどと思うことが、そもそもの間違いだったのだ。
美玲は、立ち去る前に、こう言い放った。
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第13話:恋人にも見せなかった別の顔。恋に溺れる私は、幸せなはずだった
−女を幸せにするのは恋でも愛でもない、責任よ。
そんな風に、さゆみに諭されたことがあった。しかしそれはきっと、恋をしていない女の論理なのだ。奈々は、翔平の香りに包まれるだけで幸せだった。...公に公言できるような関係ではなかったとしても。
恋は盲目というが、きっと、そうでなければ恋などできないのだ。
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第14話:憧れ続けた女は幻だった?結婚式で初めて知る、彼女の素顔
翔平が知る美玲は、いつだって気高く完璧で、隙などまるでない女。都内の高級レストランを軒並み制覇しているような、生活感のまるでない女。 家庭料理や天然、などという単語は、美玲と正反対にあるワードだと思っていた。
−俺はこの10年、美玲の何を見てきたのだろう?
永い間憧れ、彼女のことをずっと見つめ続けてきた。誰よりも自分が、美玲のことをよく知っていると思っていた。しかし実際は、翔平は彼女の「素顔」をまるで知らなかったのだ。
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第15話:刺激を欲するのは、満たされてる証。それに気づけなかった女の過ち
無意識に優一の元に向かおうとしていることに気がつき、その浅ましい考えに自分で自分を疑う。優しい優一に甘えるだけ甘え、同棲の提案も、一度は承諾しておきながら自分勝手に翻意した。
きちんと将来を見据え、奈々の幸せを考えてくれていた優一。そんな彼を裏切ったのは自分だというのに、私は何をしようとしているのだろう。 喧騒は、孤独を際立てる。
すれ違う人と肩がぶつかり、足元がふらついた。これだけたくさんの人がいても、誰も自分を気にしていない。いよいよひとりになってしまった現実を、奈々は改めて痛感するのだった。
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第16話:そして誰もいなくなった。27歳独身商社マンが孤独を感じた瞬間
結婚式で垣間見た、初めて知る彼女の素顔が思い出される。所詮は自分も、雑誌を見て盛り上がる女たちと変わらないのかもしれない。本当の彼女のことなど実際は何も知らず、幻に恋焦がれていただけ。
−あなたに、私の相手は務まらない。
あの夜彼女が翔平に投げつけた、高慢で冷酷なセリフ。しかしその言葉は実に核心を突いていたことが、今になってわかるのだ。
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