それも1つのLOVE Vol.3

それも1つのLOVE:これは宣戦布告?絶妙な見切りで彼の手を写した、あの女の意図

恋人という存在が、2017年現代の東京では、曖昧になってきている。

その人とオフィシャルな関係になる気がなくとも、その人に「彼氏・彼女」ができると、少しだけ胸が苦しくなる。

決して都合の良い関係ではない。だが、人生をかけて愛したいというのも違う。

多様化した愛の形が、今、顕在化してきている。

愛してるとは違うけど、愛していないとも言えない。

あなたの身にも、覚えはないだろうか?

そう、それもまた1つのLOVEである。

女性誌でライターをしている奈々(27歳)は、高校時代に淡い恋心を抱いていた翔平と渋谷で再会する。

しかし彼の隣には、インスタグラムに公開されている煌びやかな私生活で、同年代の女性からの羨望と嫉妬を集める美女・美玲の姿が。

奈々にはステディな彼・優一がいるにも関わらず、なぜか心に波風が立つのだった。


自分を見つめる、もう一人の自分


「あ、奈々おかえり」

渋谷駅から徒歩15分、神泉にある優一のマンションの玄関でヒールを脱ぎ捨てた時、奈々は心の底からホッとした。

一緒に暮らしているわけではないが、付き合って1年になる彼・優一は、いつも奈々を「おかえり」と迎え入れる。

「お疲れ、何か飲む?」

疲れているのは、遅くまで仕事をしていた優一のほうだ。彼も帰宅して間もないのだろう、ワイシャツのまま首元を緩めている。

女子会だと優一に嘘をついて代理店マンとのお食事会に参加し、上から目線の自慢話に疲弊したのは自業自得だ。それなのに彼は、ふぅ、と大きく息を吐いた奈々を気遣ってくれる。

「うん、なんか疲れちゃった」

昔、父親に甘えた時と同じ口調で膨れると、優一は大きな口を開けて笑い、あやすように奈々を抱き寄せた。少し汗ばんだ胸板からは、かぎ慣れた匂いがして、顔をうずめていると心に立った波風がすーっと引いていくのがわかる。

代理店マンのせいだけじゃない。つい30分前、スクランブル交差点で見た光景は、奈々の心をどうしようもなくざわつかせた。しかしその残像も、一秒ごとに臨場感を失っていく。

優一の匂いと温もりに包まれながら、奈々は思った。

これほど優しい男に愛されている自分は幸せに違いないのだ、と。しかしそれは、奈々を見つめるもう一人の奈々が、冷静に判断を下しているかのような感覚でもあった。

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