1LDKの彼方 Vol.17

結婚前の同棲ってやっぱりNG?1年後、結局別れて住むことになったワケ

4月。遠くて近い<明里>


「ねえ、本当にベッドだけでいいの?明里が選んだダイニングテーブルだって、持って行っていいんだよ」

心配そうに問いかける亮太郎に、私は眉をひそめる。

けれどその目は優しく細められていて、うとましげな態度が演技であることは明らかだった。

「も〜。何度も言うけど、菜奈が日本を留守にしてる間、部屋の管理を頼まれてるんだってば!

家具も家電も全部あるけど、ベッドだけは夫婦の使ったら悪いから持って行くの!」

「わかったけどさぁ…。…明里がいないと俺、寂しいよ」

そう言って亮太郎は肩を落とす。

「私も寂しい。ね、明日のCM撮影で歌織にどんなちょっかい出されても、そのままでいてね。週末また泊まりに来るから」

引っ越しのトラックをふたりで見送ると、私はタクシーに乗り込んだ。

「バイバイ、亮太郎!」

「じゃあね、明里」

後部座席の窓から、マンションを見上げる。

さっきまでふたりの部屋だった場所は、ベッドが運び出された今、すっかり恋人の部屋に姿を変えていた。

タクシーが出発する。

ぐんぐんと遠ざかる亮太郎の姿はだけど、1ヶ月前に亮太郎からプロポーズされた時とは比べものにならないほど近くに感じる。

同棲の惰性で結婚しても、きっとうまくいかない。

大切なものを捨てなくてはいけない関係では、一生を共に過ごすことはできない。

それなら───もう一度、確かめよう。

それがふたりでたどり着いた、答えだ。


赤信号で停車した天現寺の交差点で、窓から桜吹雪が車内に舞い込む。

これからどんな毎日が待っているのか、私にはさっぱりわからなかった。

もしかしたら他の男性と食事に行くのかもしれないし、行かないのかもしれない。

歌織に面と向かって「私に構うな」と言いに行くかもしれないし、行かないのかもしれない。

週末には亮太郎に会いに行くし、いつか、行かなくなるのかもしれない。

それはきっと、亮太郎もそうだろう。

歌織に心揺さぶられる日が来るかもしれない。

スニーカーが好きな女の子と、恋に落ちるかもしれない。

私と週末会ううちに、ひとりでいることの心地よさを知るのかもしれない。

今の私たちには、なにもわからない。1LDKに住んでいた昨日までと、全く同じように。


だけど、だからこそ。


遠くにいても、誰よりも近い存在であることを確かめるのだ。

― 離れても会いたい。それが確認できたら、私たちきっともう一度…。

信号は青に変わり、亮太郎との距離はまた開き始めた。

けれど、髪についた桜の花びらを摘む私の右手薬指には───キラキラときらめくふたりの希望が星のように輝いている。


Fin.


▶前回:待ち望んでいたプロポーズをされた30歳女。しかし、その瞬間感じた違和感とは

▶1話目はこちら:恵比寿で彼と同棲を始めた29歳女。結婚へのカウントダウンと意気込んでいたら

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください!

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
まだもっと続きを読みたい…そんな終わり方だった。この連載好きだったから終わってしまって残念。最近、新しい連載もなかなか始まらないからつまらない月曜日の朝に戻るなぁ。
2025/04/07 05:4524返信1件
No Name
なるほど😭 正直ハッピーエンドの可能性は50%位かなと予想してたけれど、ただ同棲を解消するだけで結局最後は上手くいくんだろうなと想像出来る終わり方だったのでよかった。
2025/04/07 05:2117返信1件
No Name
毎度ぶっ飛んだタイトルを付ける、もはや東スポ小説なのは昔から重々承知してますが、せっかく切なくていい話の最終話なのにタイトルで内容が丸分かりなのもどうなのと残念に思いました。
2025/04/07 05:2517
もっと見る ( 23 件 )

【1LDKの彼方】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo