SPECIAL TALK Vol.115

~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~


箏との出合いはインターナショナルスクール


金丸:LEOさんはどちらのお生まれですか?

LEO:横浜市です。東京に住んでいた時期もありますけど、ずっと横浜です。

金丸:じゃあ、かなり純度の高いハマっ子ですね(笑)。

LEO:僕はそこまでじゃないと思っているんですが、「横浜の人ってプライドが高い」って思われちゃうんですよね(笑)。僕の両親も横浜生まれ、横浜育ちなんですが、「横浜は完全に東京より優れてる!」と思っていて。「横浜生まれ」と言うのが恥ずかしい時期もありました。

金丸:実際に、横浜は素敵な街じゃないですか。先ほど、ご両親は音楽とはまったく関係ないとおっしゃっていましたが。

LEO:そうですね。そもそもの話をすると、僕は日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれました。幼い頃に両親が離婚して僕は母に引き取られ、のちに母が再婚しました。日米のミックスだけど、自分では割と日本人の要素が強い顔立ちだと思っていて。母方のおじいちゃんが結構濃いめの顔をしていて、おじいちゃんに似たのかなと。

金丸:ごきょうだいはいらっしゃるんですか?

LEO:ひとりっ子ですね。

金丸:LEOさんが箏と出合ったのは、いつですか?

LEO:小学校4年生の時なので、9歳ですね。インターナショナルスクールに通っていたんですが、4年生は全員、音楽の授業で箏を習うんです。

金丸:へえ、面白い!インターナショナルスクールだから、かえって日本文化を学ぶ機会を設けているんでしょうね。それで箏を演奏して、いきなりハマったんですか?

LEO:ハマりました。箏が初めてまともに演奏した楽器でしたが、音色に一目惚れしたというか。授業で指導してくださったのが、カーティス・パターソン先生というアメリカ生まれの箏奏者の方で。

金丸:そんな方がいらっしゃるんですね。

LEO:授業だけでは飽き足りず、個人でも教えていただきました。

金丸:プロのピアニストだと3、4歳くらいから始めると聞きますが、和楽器はどうなんでしょう?

LEO:この業界でも、9歳はスタートとしては遅めですね。中には高校生で始めたという方もいらっしゃいますが、やっぱり若い方がそれだけ耳も慣れやすいので。

金丸:箏に出合ってすぐハマり、徐々に人前でも演奏するようになったんですか?

LEO:はい。舞台に初めて立ったのは、5年生だったと思います。『曼珠沙華(まんじゅしゃか)』という曲を演奏しました。

金丸:それは古典の曲ですか?

LEO:いえ、割と新しい曲ですね。僕は1979年に創設された「沢井箏曲院」という流派に属しています。『曼珠沙華』は、沢井箏曲院を興した沢井忠夫先生が作られた曲です。忠夫先生は亡くなられましたが、パターソン先生の師匠であり、いま、僕が師事している一恵先生の旦那さんです。

最優秀賞、メジャーデビュー。それでも壁にぶつかった


金丸:9歳から箏を本格的に習い始め、その後はどのようにステップアップされていったのでしょう?箏にも全国大会とかあるんですか?

LEO:小中学校や高校の箏曲部が腕を競い合う全国大会があります。全国からたくさんの学生が参加しているんです。

金丸:箏曲部って、全国に結構あるんですか?

LEO:あります、あります。むしろ最近は増えているくらいで。

金丸:ええっ、そうなんですね。まったく知らなかった。

LEO:ただ、僕の場合は個人でも大会に出ていました。

金丸:ターニングポイントになった大会はありましたか?

LEO:「くまもと全国邦楽コンクール」ですね。箏、尺八、琵琶、三味線、合奏の5部門があり、大人も出場する全国レベルの大会です。僕は16歳の時に出場して、最優秀賞・文部科学大臣賞をいただきました。

金丸:それはすごい!邦楽って、どうしても保守的なイメージがあるんですけど、若い人を優勝させるっていうのは、変化を求めているということですかね。

LEO:実際、保守的な方は多いと思いますよ。でも、いまになって思うのは、コンクールって、ただただ実力を競うだけではないのかなと。「若手演奏家をプロデュースするためにある」というと言い過ぎかもしれませんが、優勝すればやっぱりその人の音楽人生が変わるので。

金丸:その人の伸び代に賭けるというか、背中を押すという部分はありますよね。

LEO:僕自身、最優秀賞をいただいたのが話題になって、いまのレコード会社のプロデューサーから声をかけていただき、デビューしました。10代でデビューするというのは、箏の世界ではほぼ前例がなくて、かなり話題性があったと思います。

金丸:でも、さっきもおっしゃったように、箏自体の認知度が低くて、集客に苦労されたんですよね。

LEO:デビューしてすぐ「箏のプロとして食べていくなんて、全然無理じゃん!」と気づかされましたね(笑)。

金丸:落ち込みました?

LEO:落ち込みました。それも結構長い間……。

金丸:でも落ち込んだからといって、何かがうまくいくわけじゃないから、ほどほどがいいですよ。

LEO:金丸さんも落ち込むことはあるんですか?

金丸:そりゃあ、ありますよ(笑)。ただ私は「落ち込んだら余計なことはしない」と決めています。むしろ逆に、自らどんどん落ち込んで、どん底まで行ってしまう。

LEO:もうそれ以上落ちることがないように、ということですか?

金丸:そうそう。落ち込んだら、「よし、明日も落ち込もう」って(笑)。そうやって、より落ち込もうとすると、結構すぐ底にたどり着く。そしたら翌日からは、普通にしてても上がっていくしかありません。

LEO:そんな考え方ができたら良かったんですけど。

金丸:「どうにか抜け出したい」という思いがあると、うまくいかなかったときに、さらにストレスを抱えてしまうので。

LEO:それはそうかもしれませんね。ドツボにはまるというか。

金丸:落ち込んだところから復元する力って、努力とかではどうにもならない自然の力だと思います。だから「今日も落ち込んだぞ、もうすぐ底に着くぞ、素晴らしい」「あとは上がるだけだ」って、ポジティブに捉えられるようになったら無敵です(笑)。

LEO:それをもっと早くお聞きしていれば。僕なんて大学に通っていた頃は、結構落ち込むことも多かった気がします。

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