SPECIAL TALK Vol.102

~世界最高峰をこの目で見た経験を生かし、人が集まるいい環境を作りたい~


ハーバード大学で世界最高峰を目の当たりに


金丸:日本は伝統的に化学が強い時代がありました。でも、そこに未来があると思っていたら、世界ではケミカル以上にバイオが伸びて、日本は世界から引き離されているという状況です。

西田:基礎的な分野では、日本がかなり進んでいる部分もあったんですけどね。でも産業応用の分野だと、どれだけ未来を信じて投資をするかが決め手になるので、そこでアメリカに大きく出遅れてしまった。

金丸:未来が見えていないのか、見ようとしないのか、見えていても現実逃避で目をふさいでしまうのか。日本って、そういう傾向が企業でも大学でもあるんじゃないかと思います。

西田:そうですね。かつて特定の分野で強かったという成功体験が、逆に足かせになっているのかもしれません。

金丸:日本は国として後手に回ることが多い。それで通用する時代もあったけれど、今は先行している国が失敗も含めてどんどん知見を蓄積していくので、追いかけても距離が縮まるどころか、どんどん突き放されてしまう。マラソンも先頭集団から脱落すると、なかなか勝てないですよね。だから後ろからついていくのではなく、先頭に行かないといけない。話を戻しますが、西田さんは東京大学卒業後、アメリカに留学されました。何がきっかけだったのですか?

西田:東大の大学院を出て、「ドクターにはなったけど、これから何をしよう」と思ったんですね。すぐに大学でポジションに就く人もいるんですけど、今はどちらかというと、ポスドク(博士号取得後、任期制で雇用される研究員)という立場で短期のポジションに就くことが多くて。

金丸:せっかく博士号を取っても、まともな収入を得られないという話はよく聞きます。

西田:私も日本から奨学金をいただいている時期もありましたが、ポジションがない。日本に居続けるか、それとも外に飛び出すかの二択でアメリカを選びました。戻ってくるあてがあったわけではないので、留学といっていいのか、微妙なところですけど。

金丸:ハーバード大学での生活はいかがでしたか?

西田:5年過ごしたんですが、一番よかったのは、世界最高峰の人たちが集まっていたことですね。世界のトップ層をこの目で見ることができました。

金丸:トップの人たちって、やはり何か違いますか?

西田:もちろん、個人個人も優れていますが、それだけじゃなくて、そういう人たちがすごく狭いエリアに集中していることによって、さらに伸びていく環境だということを肌で感じました。

金丸:天才がひとり、ぽつんといるのではなく、お互い刺激しあっている。野球でもそうですね。大谷翔平選手が日本にいたままだったら、国内では飛び抜けた存在で居続けられたかもしれない。でもメジャーリーグに乗り込んで、アーロン・ジャッジのような強力なライバルがいる中で切磋琢磨するうちに、さらに高いレベルに成長できる。

西田:だから、個人の能力がベースにあった上で、さらに成長を促すシステムがあるかどうかという違いは大きいですね。

金丸:日本って、いまだに大企業の社長も日本人の中から選ぶじゃないですか。でも、たとえばコカ・コーラはアメリカ発祥の企業ですが、アメリカ人の中から社長を選ぶのではなく、世界中の優秀な人から選んでいます。

西田:東大の総長(学長)を世界中から選べるかというと、選べないですよね。

金丸:それに見合った待遇も用意できないでしょう。アメリカだと学長の給与が1億円を超えることも珍しくありません。日本の国立大学は独立行政法人化されて国の機関ではなくなりました。教授たちも公務員ではなくなったはずなのに、「そんなに給料をもらっているなんておかしい」と、公務員と同じような視点でたたかれる。この状況がこのまま続くと、どんどん厳しくなっていきますよね。

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