マウンティング・ポリス Vol.1

マウンティング・ポリス:未婚の37歳友人に「結婚してなくて可哀想」と言い放つ女。しかし、実は夫と…

Case0:結婚マウンティングをしてくる女


早朝に届いたLINE。それは、友人・澪からの「ランチに行かない?」という唐突なお誘いメッセージだった。

「Hey Mio.久しぶりだね」

急いで待ち合わせ場所へ向かうと、すでに澪と、彼女の友人である綾美が席に着いていた。

「ジェームズさん♡ご無沙汰しております!お元気でしたか?」

そう言って、いきなり僕に飛びついてきた綾美。…彼女に会うのは、今日が2回目のはずだ。その距離感に少し驚いてしまう。

「ジェームズ、元気だった?久しぶりね」

一方の澪は、いつものように物静かで品格漂う雰囲気だ。彼女とは子どもの頃からの顔なじみ。住んでいた家も近くて、家族ぐるみの付き合いになる。

今日のシックな装いもよく似合っていて、TASAKIバランスシリーズのパールネックレスとお揃いのイヤリングが、グレーのトップスに映えていた。

「で?今日はどうしたの?」
「綾美さんが、ジェームズに会いたいという話で…」

人のいい澪のことだ。どうせ無理矢理セッティングをお願いされ、断れなかったのだろう。

しかし、こういう誘いは度々ある。僕にはよくわからないが、仲のいい女友達いわく「ハイスペイケメンすぎて、逆に人畜無害」なんだそうだ。

幸いにも仕事は順調で、近頃は時間を持て余している。綾美には少し面食らったが、一旦、彼女の話に耳を傾けることにした。

「ジェームズさん、今お付き合いされている方はいらっしゃるんですか?」

綾美はそう言って、僕にシナを作る。

「いや、どうだろうね…」

この手の女性は、少し苦手だ。それに、明確に好意を向けてきてくれるのは嬉しいけれど、たしか彼女は既婚者だった気がする。

「綾美さん、結婚されていませんでしたか?」
「あ…。ちょっと聞いてくれます?最近、夫の愛情表現がより一層強くなっていて。疲れてるのに甘えてくるし、スキンシップも激しくて」
「それはいいですね」

適度な相槌を打ちながら、彼女の話を聞いた。

ちなみに僕には、結婚して今はロサンゼルスに住む、気の強い姉がいる。だから“女性の話は、適度に相槌を打ちながらひたすら笑顔で聞くこと”が大切だと知っているのだ。

それがきいたのか、綾美の話は少しも止まる様子がない。


「お互い30のときに結婚して、もう3年も経つのに…。本当、困っちゃいますよね。それに経営者でもないから、年収も3,000万くらいしかなくって。あ、うちの夫は外銀勤めなんですけどね」

― 年収3,000万、かあ。

手取り額がいくらになるのか、頭の中でぼんやり計算していた、そのとき。綾美は急にハッとしたような表情で、自分の顔を小さな手で覆った。

「って、澪さんごめんなさい!結婚していないのに、こんな話ばかりしたら退屈ですよね?私ったら本当に空気が読めなくて…」

しゅんとする綾美に驚いていると、澪が空気を読んだのか、小さな声で言葉を発した。

「全然退屈じゃないですよ。実は最近、いいなと思っている人ができたんです…」
「澪、好きな人ができたの?いいね!」

そう、2人で盛り上がっているときだった。

「ようやく澪さんも、結婚できそうな人と出会えたんですか?…あぁ、よかったあ」

唇をぷっくりとさせ、なぜかちょっと体をクネらせている綾美。澪へ向けられた言葉に、どこかトゲがあるような気がしたのは、僕だけなのだろうか…。

「そうね、綾美さん。おかげさまで私もようやく彼氏ができそう」
「本当によかったです〜!澪さんって、綺麗なのに男運がないというかなんというか…。いまだに独身だし、私の夫も心配してたんですよ」

ちなみに澪は、現在37歳だ。

「結婚って意外にいいものですよ!女性の幸せって、やっぱりいつかは妻になることだと思うんですよね~!」

そう言ってチラッと僕を見る綾美を見て、心がザワザワと音を立てる。

「それに澪さんって、大人しいというか少し地味というか…。本来だったら、20代のうちに結婚してるはずのキャラだと思うんですよね。澪さんはその方と結婚するんですか?」
「いや、それはどうかしら。まだ何も決めていないけど…」

その言葉に、声のトーンをあげながら綾美はこう言ったのだ。

「絶対、早く結婚したほうがいいですよ!ねぇ、ジェームズさん?」

…もうこれ以上、黙って聞いていられる状況ではなかった。

この記事へのコメント

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No Name
嫌なマウンティング女を成敗してくれるポリスの話なんて、なんとも設定が面白い!そして読んだ後清々しい気分!
2022/01/25 05:1799+返信6件
本日の名言
「そもそも、独身の何が悪いんだっけ?結婚したからといって幸せになれるわけでもないし、1人でも十分楽しめる時代だよ!独身だから不幸だなんて、そんな法則この世にはないと思うけどな」

本当にその通りですね。
結婚した途端に、偉くなったような態度で独身を見下す人本当に多いから。
2022/01/25 05:4099+返信1件
No Name
体をクネクネさせながら止めどなく自慢話する女性、大嫌いなんだよね!綾美にはイライラしたけど、成敗してくれてよかった!
2022/01/25 05:1884返信8件
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