西麻布で行われたある飲み会で、私は拓と出会った。
最初はただただ顔がタイプで、なおかつ“実家を継いでくれそうな医者の卵”だったから、付き合うにはちょうどいいなと思っていたのだ。
両親を見ていて、愛情というものに希望を持てなくなっていた私は、無意識に「自分にとって都合のいい男性」を求めていたのだ。
しかし拓は、ちゃんと私に愛を伝えてくれる。いつしか本気で彼のことを好きになってしまった。
そして幸せの絶頂のうちに、授かり婚。両親とは違う、幸福なゴールを決められたと思っていた。
でも優しい彼は、結婚と同時に消えてしまったのだ。
帰宅時間はいつも深夜。2人で過ごす時間もほとんどなく、こちらが話しかけても上の空でいることが多い。
そしてついに昨日、拓と口論になった。
「拓ってさ、結婚した途端に冷たくなったよね。…もし私の家がクリニックじゃなかったら、結婚してた?」
「どうして、そんなこと言うの?」
拓は穏やかな口調でそう言うけれど、私は気づいてしまったのだ。彼がこっそり、医大生の女と付き合っていることを。
昨夜、拓が寝ている隙にLINEをチェックした。すると完全にクロと思われるメッセージを見つけたのだ。
なんで“拓の悪事”を知っていながら、離婚しないのか。…その理由は、ただひとつ。
彼のことが大好きで、手放したくないから。
単純に顔が好みなのと、まだ少なからず愛情表現もしてくれる。でもそれ以上に彼のハングリー精神を、純粋に尊敬しているのだ。
私のような恵まれた女にはない、その精神。これまで付き合ってきた「ご子息」と呼ばれる男たちにも、それだけはなかった。皆どこか、親に甘えていたからだ。
一方で潤沢なお金や権力など何もない、庶民育ちの拓はどうだろう。
親の後ろ盾なんて何もなく「成り上がりたい」という思いを持ち、私に近づいてきて結婚までした。そのたくましさを心の底から尊敬しているので、今後も別れる気などない。
どんなに女遊びを繰り返そうが、それは向こうも同じだろう。この病院の跡取りとならなければ、成り上がることは不可能だから。
それに病院経営を拓がメインでやってくれると、私もラクなのだ。彼に一生懸命働いてもらって、私は優雅に子育て。たまにクリニックを手伝う程度。
お金にも仕事にも困らず、好みの顔である夫とその子どもが、ずっと側にいてくれる。…これって、なんて幸せなことだろう。
私は、両親に買い与えられた億ションのリビングで、フフッと口角を上げて微笑む。
すべてを割り切って“逆・玉の輿狙い”での結婚を受け入れた私って、最強だなあと思った。
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この記事へのコメント
ただ結婚したと同時に冷たくなるって、あからさま過ぎ。