2021.06.07
#美ごもり Vol.1俊介と出会ったのは、友人の家で開かれたホムパだった。
彼は33歳。元々は外資系投資銀行に勤めていて、現在は会社を経営しているという。ぶっきらぼうな話し方だけど、どこか優しさを感じられ、素敵だなと思ったのが第一印象だった。
そしてその場で連絡先を交換し、二人で食事へ行くようになったのだ。
「愛美ちゃんって、本当に美人だよね。スタイルもいいし。モデルだっけ?」
「昔ちょこっとやっていました。今も少しだけ…。でも俊介さんの周り、綺麗な人多そうですよね」
「うーん、どうだろう。まぁそれなりに、みんな綺麗だよね」
— それなりに、か…。
彼の言う“それなり”とは、どの程度のことを指すのだろうか。きっと、相当なレベルだ。
東京には元タレントやモデルの卵など、素人ではない美女で溢れている。特に東京で遊んでいるトップ層の男性たちの周りには、そんな女性たちしかいない。
私も地元では、ちょっとした可愛い子で通っていた。でも東京に来て、私の外見なんて至って普通で、特別ではなかったことに気づかされた。
モデルをしていると言っても、別に超有名雑誌に載っているわけではない。ウェディング雑誌のモデルが主で、あとはSNS関係で頼まれる仕事が少し。これ以上モデルとして成功できないことくらい、自分でもよくわかっている。
28歳という年齢を考えても、今の中途半端な状況から抜け出すには、もう結婚しか術がない気がしている。
「俺さ、結婚するなら綺麗な人がいいんだよね。だって子どもに遺伝子残るわけだし。愛美ちゃんはその点、最高だね」
彼の口から“結婚”という言葉を聞いたとき、私が舞い上がったのは言うまでもない。
だから私は必死だった。俊介の期待に沿えるように。そして、このチャンスを逃さぬように。毎回のデートは気合を入れて挑んだ。
デート前は、食事を酵素ジュースに置き換え。マツエクもネイルも完璧な状態にしていたし、華やかで美人なオンナを演出していた。
そんな努力が報われたのだろうか。
数回デートをした後、気がつけば、俊介とはお互いの家に泊まりあう仲になっていたのだ。
「ねぇ俊介。この関係って、なんだろう」
一度だけベッドの上でまどろむ俊介に聞いたことがある。本当は、コトが済む前に聞いておくべきだった。でも無駄なプライドと遠慮が邪魔をして、私は聞けずに終わっていたのだ。
— 彼女ってことでいいんだよね…?
毎週末のように会っているし、嫌われてはいないはず。そもそも、私の”外見”を彼は好きだと言っている。
けれど俊介の口から飛び出したのは、望んでいたものとは違う言葉だった。
「俺さ、縛られるのが嫌いなんだよね。それに今の関係性って、ちょうどよくない?」
ショックで何も言えなかった。
もっと、自分に自信があったらよかったのかもしれない。自分は特別だと思えるような強さがあれば違ったのかもしれない。
でも今の私は仕事面も含めて不安定で、自分が何者なのか、何をしたいのか毎日手探り状態だ。
結婚できるかどうかもわからず、不安だけが募る。だからとにかく安心できる材料が欲しかった。東京で生きて行く術が欲しかった。
俊介とのことは、中途半端な生活を救ってくれる最後の砦だと思っていたのだ。失うのが怖くて、繋ぎとめておきたくて、私は彼に作り笑顔を向けた。
「そっか。そうだよね」
「やっぱり愛美はイイ女だな。そうだ今度さ、俺の友達とみんなで飲まない?誰か友達も連れてきてよ」
それだけ言うと、俊介はもうそっぽを向いて寝てしまった。
ふと手元を見ると、ネイルした爪が根元から数ミリ伸びている。純白のシーツの上に似つかぬ、微妙に伸びた赤いネイル。その手は非常にバランスが悪く、不恰好だ。
「こんな中途半端なら、いっそのことネイルをしてない方がいいのかも…」
静かな部屋で、ひとりつぶやく。
それは、今の私そのものだった。
次行こ〜、次!
とりあえず曖昧な関係から卒業できてよかったですよね。
【#美ごもり】の記事一覧
2021.08.24
Vol.13
ママ友界隈での“踏み絵”的アイテム。1個20万円弱もする、あの品物を購入できないと…?
2021.08.23
Vol.12
“おうち美容”に夢中になった男女たちの、行く末は…?「#美ごもり」全話総集編
2021.08.17
Vol.11
社内恋愛中の彼氏が浮気していたのは、5歳下の後輩。その女を妊娠させてしまい…?
2021.08.10
Vol.10
「楽だから、カップ付きキャミばかり」ブラをすることが面倒になっていた女。気がついた時には…
2021.08.03
Vol.9
これってワガママ?「結婚がしたい。でも子どもはいらない…」女友達には言えない、独身女の本音
2021.07.27
Vol.8
結婚3年、ずっと愛され妻でいたいと願う女。ステイホームの期間でひと肌脱いだ結果…
2021.07.19
Vol.7
「私さえ我慢すれば…」男にNOと言えない女が、モラハラ彼氏から解放されたキッカケは…
2021.07.12
Vol.6
「20代の時より、紹介される男のレベルが落ちた。でも...」妥協できない30代独身女の、リアルな叫び
2021.07.05
Vol.5
「お腹にいるのは、誰との子なんだ…?」二股をかけられモヤモヤする男が、自宅でコッソリ始めたこと
2021.06.28
Vol.4
自粛期間で7kgも“ふくよか”になった妻。夫とご無沙汰になり、あるリベンジ法を思いつくが…
おすすめ記事
2018.01.25
エビダン!
エビダン!:港区に集まる男は“社会人デビュー組”だけ。生粋のモテ男は恵比寿に集う?
- PR
2024.12.19
「彼のこと、気になってきちゃった…」女性との距離が急速に縮まる、特別な気持ちの伝え方とは
2019.11.23
オトナの恋愛論~宿題編~
「生理的にイヤ・・・!」と女がデート中に感じてしまう、男の特徴とは
2020.04.08
フレネミーな2人
フレネミーな2人:「あの子、失敗してくれたらいいのに」看板アナの座を狙う、新人女子アナの裏の顔
- PR
2024.12.20
初心者も楽しめるカジノがアツい!“大人のテーマパーク”「パラダイスシティ」主催のイベントに編集部が潜入
2022.01.22
東京エアポケット
“お小遣い制”の35歳、豊洲住まいの専業主婦。ブランドバッグを買おうとしたら、夫が意外な反応を…
2018.06.29
婚活モンスター
婚活モンスター:商社マン大好き♡そんな女が、絶対に商社マンから選ばれない悲しいワケ
2017.08.08
注文の多い女たち
注文の多い女たち: 32歳の美女、並の25歳に惨敗。その理由は若さだけなのか?
2018.01.07
デートの答えあわせ【A】
見落としがちな、デート直前のマナー。日程決めの際に男が必ずすべき事とは:デートの答えあわせ【A】
2016.12.26
Wakiyaメン
Wakiyaメン:きっかけは、高嶺の花との恋。担々麺さえも恋愛ツールにしてしまう男たち
東京カレンダーショッピング
『かに物語』:〆まで楽しめる雑炊の素付き!蟹の旨みがたっぷりと溶け出すかに鍋セットミニ
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『東京京橋おばんざい醸』:肉を引き立てる3種の塩!A5黒毛和牛を使ったローストビーフ
『かに物語』:海老・帆立・蟹!ベシャメルソースに、各種海の幸をトッピングした贅沢グラタン
『UMIKARA』:薄切り・厚切り食べ比べ!特製出し汁で味わう若狭湾真鯛の鯛しゃぶセット
『パンツェロッテリア』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『オリベート』:黒トリュフ香る、口当たりクリーミーな究極のティラミス
『ミホ・シェフ・ショコラティエ』:日本を代表するショコラティエ―ルが作る、 ショコラ好きのための濃厚ガトーショコラ
『LOUANGE TOKYO』:アート感溢れるビジュアル!口溶けなめらかな大人の生チョコレートエクレア(6種)
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
この記事へのコメント