#美ごもり Vol.1

#美ごもり:「私って、彼の何なの?」割り切った関係に疲れた女が求めたモノとは



俊介からドタキャンを食らった翌日。私は、ネイルサロンに来ていた。

この前俊介に会った日に感じた虚しさから、卒業しにきたのだ。

「あの、次のネイルはいいんですか?これから夏ですし、ホワイト系もオススメですけど…」
「いえ、結構です。オフだけお願いします」

ネイリストさんが勧めるのを押し切り、ジェルネイルをオフすることにした。気づけばここ10年、私の爪にはずっと人工的なコーティングがされていたのだ。

“爪の綺麗な女は、イイ女”。

そう信じて、ジェルネイルを続けてきた。だけど俊介からのドタキャン電話を受けた後、ガチガチに固められた爪先が急にチープに見えたのだ。

「自分を、取り戻したいんです」
「え?」

ネイリストさんが不思議そうな顔をしているのを横目に、私はどんどん剥がれていくジェルネイルを見つめた。

最近出かける機会も減り、セルフネイルグッズも充実している。私の周囲でも、ネイルをやめた人が増えている気がする。

やめるなら、今だ。

今が最高のタイミングだ。

「はい、終わりました」

久しぶりに見た、簡素でヌーディーな自爪。

ずっとジェルネイルを続けてきたせいか、爪はすっかり薄く、もろくなっていた。


「私の爪って、こんなに薄かったのか…」

でも、どうしてだろう…?なんの飾り気もない自分の手元を見ると、錆び付いていた重い鎧が、ゆっくり剥がれていく気がする。

ずっと、自分と向き合うのを避けてきた。裸になったら何もない自分が恥ずかしくて、隠すためにとにかくずっと着飾って、自分を守ってきた。

— 傷つきたくない。負けたくない…。

でも、もう限界だ。愛想笑いを繰り返していくうちに、私の心はすり減っていたようだ。

ネイルサロンを後にすると、携帯を取り出してメッセージを送った。

愛美:俊介、私のこと好き?


どうして、こんな簡単なことが聞けなかったのだろうか。たった一言でいいのに。

— 私は、自分のことを好きと言ってくれる、大切な人と一緒にいたかっただけ。

既読はついても返信のない携帯を見ながら、私はもう一度、ネイルオフした指先を見つめる。

見栄のためだけに、心に嘘をつくのはやめよう。自分をすり減らすような恋愛も、やめよう。…そして素の自分を、愛そう。

消毒続きで少し荒れた手を見ながら、そっと自分で自分の手を握りしめる。

「サヨナラ、俊介」

人は、変わりたいと願う生き物なのかもしれない。以前の私だったら、何も言えなかった。面倒な女になりたくなくて、言いたいことも我慢していた。

でも、そんな自分は卒業。

本来の自分に自信を持って、ありのままの自分を受け入れて肯定すると、以前より強くなれる気がする。

「よし!次は絶対、幸せになるんだ!」

見上げた東京の空は、雲ひとつない快晴だった。


▶他にも:「蒲田に住んでるって言いたくない…」年収550万の女が、引っ越した先に見つけた大切なモノ

▶NEXT:6月14日 月曜更新予定
自暴自棄になった女を、救ってくれたモノとは?

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この記事へのコメント

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No Name
ことが進む前に聞いておくべきだった
正にそうです!
1話完結で文章も読みやすいので今後も楽しみです。
2021/06/07 05:1899+
No Name
昨日も似たような男いたけど、返信こないとか当時誘ってきて振り回す、頻繁にドタキャン、束縛するなと言う.. これおクズ様の典型例だよね!
次行こ〜、次!
2021/06/07 05:3899+返信3件
No Name
最初から外見を褒めちぎる人ってちょっと警戒してしまいます。私の中の勝手な統計だとチャライ男の典型! 逆に外見のことを何も触れてこない人の方が誠実で長く付き合いたいと思ってくれていることが多かったです。
とりあえず曖昧な関係から卒業できてよかったですよね。
2021/06/07 05:1668返信15件
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