病める時も、ふくよかなる時も Vol.10

「夫はもう、私を女として見ていない...」絶望し自堕落となった妻を救った、ある男の言葉

―病める時も、健やかなる時も。これを愛し、これを敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?―

かつて揺るぎない言葉で永遠の愛を誓い、夫婦となった男女。

しかし…妻が“女”を怠けてしまった場合でも、そこに注がれる愛はあるのだろうか?

8kg太り、夫の誠司から夫婦生活を断られてしまった栗山美月は、誠司の無理解に悩まされながらも痩せることを決意。

パーソナルトレーナーの甲斐と、ダイエットを始めるが、甲斐と食事をしているところを誠司に目撃されてしまう。ところが夫は、もはやヤキモチすら焼かないのだった。


「いってらっしゃい、誠司さん」

「いってきます、みいちゃん。今日の夕食も楽しみにしてるよ」

小さなキスを交わす、穏やかな朝。

静かに玄関のドアが閉じて誠司の気配がなくなると、美月はリビングへと戻り「ふう…」とため息をつく。そしてどっかりとソファに腰を下ろした。

深く体を沈み込ませたまま、リモコンを手に取る。騒がしい朝のテレビ番組をBGMがわりにつけると、コーヒーテーブルに置きっ放しになっていた紙袋を近くに引き寄せた。

紙袋は、『ペストリー&ベーカリー GGCo./東京マリオットホテル』のものだ。昨日の晩、誠司が「急に食べたくなって」と言って購入してきたカレーパンや、そのほかの惣菜パンがまだ3つも残っている。

部屋着のままテレビを見ながら、美月はカレーパンにかぶりつく。

先週、美月は夫・誠司の気持ちが完全に自分へ向いていないことを感じ取った。それ以来、1週間こうして運動もせず、好きなものをダラダラと食べ続ける自堕落な生活を続けているのだった。

―私が夜遊びしてても気にならない。ダイエットの成果にだって気付きもしない…。これ以上痩せて綺麗になったって、どうせ誠司さんは仕事とポルシェのことにしか興味ないんだ…。

あれほど頑張っていたダイエットに対する情熱も、今はすっかりどこかへ行ってしまった。つらいトレーニングもせず、好きなものを好きなだけ食べる生活は、美月の傷ついた心を優しく甘やかし癒してくれる。

食事制限に頭を悩ませる必要もない。ボルダリングで手のひらを痛めることもない。

それに...女性として見られていないものの、妻としては間違いなく大切にされている。優しい夫、穏やかな生活、趣味程度の仕事。これ以上のことを望むのは欲張りすぎというものだろう。

ただ…。

向上心を失い、何もかもを諦めた美月にも、罪悪感をかきたてるものが一つだけあった。

それは他でもない。美月のダイエットを心から応援してくれていた、甲斐の存在だ。

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