東京レストラン・ストーリー Vol.35

早稲田大学を卒業後、院に進学した男と代理店に就職した女。社会人1年目のGWに危機が訪れ…

レストランに一歩足を踏み入れたとき、多くの人は高揚感を感じることだろう。

なぜならその瞬間、あなただけの大切なストーリーが始まるから。

これは東京のレストランを舞台にした、大人の男女のストーリー。

▶前回:大好きだった彼女が結婚する。彼女の“2番手”だった男2人は、彼女の結婚式当日…


「きっと、これが最後の記念日」潤(23歳)/恵比寿『Atelier LaLa』


― 新入生歓迎会の時期って、ほんとキャンパスが賑やかだなあ。

5月の頭。

早稲田大学の大学院に進学したばかりの潤は、日が暮れた構内を早足で歩く。

同い年の彼女・小春と、恵比寿のレストランで19時に待ち合わせているのだ。

今日は交際3年目の記念日。Tiffanyでリングを買ってきた。

オレンジの電灯に照らされる、美しいブルーの紙袋。中には、小春への思いをつづった手紙も忍ばせてある。

「間に合うかな…」

元気あふれる学部生たちの間を縫うように、潤は急ぐ。

校門を出て、東西線の早稲田駅から高田馬場駅へ移動し、山手線に乗り換えて6駅。

待ち合わせのお店、『Atelier LaLa』に、時間通りに到着した。

ここは、小春が気に入っているイタリアンレストランだ。

味はもとより、架空の映画の主人公「LaLa」のアトリエという設定の世界観が大好きだという。

「記念日はここがいい」という彼女のリクエストに応じ、予約した。

― カジュアルなお店を選んでくれたのは、まだ学生である僕への配慮だろう。

潤は思う。小春の、そういう優しい気遣いができるところも、大好きだと。

席に案内されたとき、スマホが震える。

『小春:ごめん、残業してます』

そっけないメッセージだ。

― 昔の小春だったら、デートに遅れるときは、半泣きの勢いで電話をかけてきたけど。

潤は1人、グラスの赤ワインを注文し、物思いにふける。

院に進学した潤とは違い、小春はこの春から新社会人になって、大手広告代理店で働いている。

就活を始めたあたりから、小春はどんどん変わっていった。

この記事へのコメント

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No Name
GW明けにある社内飲み会のお店探ししてて遅くなった? そんなの今日残業しなくても良さそうじゃん。多分その手伝ってくれた先輩のこと好きになったとか? にしても自分の事しか考えてない無神経な小春、最低だよね。一緒にしたい事? ないかも とか潤が気の毒で😭
2024/05/01 05:3564
No Name
ティファニーの紙袋で小春の気持ちが変わればと思ったけれど、「おお」と「いいデザインだね」だけなんて酷過ぎやしない?
彼女を失いたくないけれどもう修復不可だと悟った潤の気持ちを考えたら泣けてくる。でも彼は小春よりもずっと素敵な女性に出会えると思う!
2024/05/01 05:2856
No Name
切なくてステキなお話!感情移入し過ぎて涙出た。
潤がピュアで良い人過ぎる一方、小春の冷め切った感にイラッとしてしまった。
2024/05/01 05:1844返信1件
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