東京レストラン・ストーリー Vol.36

いつも“片耳イヤホン”の29歳彼氏。彼女が「やめて」と指摘したら険悪な雰囲気になり…

レストランに一歩足を踏み入れたとき、多くの人は高揚感を感じることだろう。

なぜならその瞬間、あなただけの大切なストーリーが始まるから。

これは東京のレストランを舞台にした、大人の男女のストーリー。

▶前回:早稲田大学を卒業後、院に進学した男と代理店に就職した女。社会人1年目のGWに危機が訪れ…


「大好きな彼は“コンテンツ男”」知子(27歳)/ 六本木一丁目『レストラン ローブ』


「ふう、重たい」

4月も終わりに近づいた木曜日。

三軒茶屋の駅前にあるスーパーマーケットで買いものを終えた知子は、ずっしりとしたビニール袋を2つ、両手に抱えている。

― 19時なのに、まだ少し明るい。日が長くなったなあ。

食事会で出会って交際1年、2つ年上の彼氏・遊真と一緒に住んでいるマンションまで、徒歩10分。

看護師の仕事で疲弊した体を引きずるように、知子はゆっくり歩く。

現在、同棲して3ヶ月。知子はシフト制の仕事なので、毎日遊真と一緒に家で食事をとれるわけではない。

だからこそ、たまに都合が合う日は、彼のために夕食を作ってあげようと決めている。

遊真に尽くすことに、そこはかとない幸せを感じる日々だ。

「あれ、トモちゃん?」

そのとき、背後から大好きな声がした。振り向くと、遊真が立っている。

「やっぱりトモちゃんだ。偶然だね」

「遊真!帰り道一緒になるなんて初めてだね」

嬉しい、と知子が言い終わる前に、遊真は知子が持っていた重いビニール袋をひょいと無言で取り上げた。

その頼もしい動きに、知子は幼い少女のように頬を赤らめる。

背が高くて筋肉質で、顔がめちゃくちゃタイプ、そして長男気質で、守ってくれるタイプ。おまけに、仕事熱心なところも大好きだ。

「イベント、もうすぐでしょう?準備はどう?」

遊真は、小さなイベント企画会社を経営している。

今は、GWに行われる人気週刊漫画誌の大型イベントで忙しいのだ。年末から準備を頑張っていて、あと数日で本番を迎える。

「絶好調だよ。トモちゃんは?」

知子は、今日は先輩がたくさん仕事を手伝ってくれたこと。その先輩の作ってくるお弁当が毎日素晴らしくて尊敬していることを話す。

笑顔で相槌を打ってくれる遊真。風が吹いて、そのちょっと長いパーマヘアが揺れる。

そのときあらわになった、彼の耳。…知子は、一転して複雑な気持ちになる。

この記事へのコメント

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No Name
あぁ…これはきっと意見が分かれるのかも知れないけれど、私は知子と同様いつもイヤホンで何か流してる状態は止めてほしいかな。最初はうだうだ言いながらも素直に受け入れてくれる彼氏で良かったよ。
2024/05/08 05:1448
No Name
なんだか彼氏も彼女も穏やかで、読み終わった後もホッコリした。
2024/05/08 06:5324
No Name
グラタンとかドリアが好きな男子、何気に多い!
2024/05/08 08:0123返信1件
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