ー病める時も、健やかなる時も。これを愛し、これを敬い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?ー
かつて揺るぎない言葉で永遠の愛を誓い、夫婦となった男女。
しかし...妻が“女”を怠けてしまった場合でも、そこに注がれる愛はあるのだろうか?
料理を作ることも食べることも大好きな栗山美月は、結婚後、なんと8kgも太ってしまった。
太っていたって、愛されている。そう信じていた美月だったが...。
これは、ふくよかな体型となった主婦を襲った、絶望と再起の物語。
―誠司さんに抱かれなくなって、何年経つだろう?
午後3時の日比谷線に揺られながら、栗山美月(くりやま・みづき)はぼんやり考えた。
29歳で結婚して5年。最初の2年くらいは、ごく一般的な新婚夫婦なりのペースで”あった”ように思う。
けれど、35歳を目前に控えた今。7歳年上の夫・誠司との間には、そんなムードはすっかりなくなってしまっていた。
―あれ…?もしかして、もう3年くらいしてない…?
夫婦生活が途絶えてから想像以上に長い時間が過ぎていたことに気がついた美月は、思わず愕然とする。
「寝る時は1人がいい」と言う誠司の主張で、寝室を分けていることも一因なのかもしれない。
そこまで考え込んでから美月は、邪念を振り落とすようにブルブルと小さく頭を振った。
公共の場で、真昼のうちからこんなことを考えてしまったのは、目の前にぶら下がっている週刊誌の中吊り広告のせいだろう。
『セックスレスが夫婦を破壊する』
どぎつい紫色の活字が空調の風に煽られ、美月を挑発するようにハタハタとひらめく。
その挑発にまんまと嵌まり、食い入るように活字に見入っていた美月は、低い車内アナウンスの声で気持ちを切り替えた。
「中目黒、中目黒でございます−」
食材を詰め込んだナショナル麻布のエコバッグを肩にかけ直すと、美月は中吊り広告を目で睨むように一瞥する。そして、プーマのスニーカーでホームへと一歩を踏み出しながら、こう自分に言い聞かせるのだった。
―まさか。誠司さんと私の結婚が壊れるわけないじゃない。セックスなんてなくたって、私たちは仲良しなんだから…。
この記事へのコメント
ブスは仕方ないが、デブはどうにかしろ。
オンナを捨てて、だらしなく太るのは自己責任だよね。