病める時も、ふくよかなる時も Vol.1

病める時も、ふくよかなる時も:結婚後に8キロ増。女を怠けていた妻に、夫が放った残酷な一言

レッスンが無事に終了し、後片付けと夕食作りを終えた頃には、午後の8時を少し回っていた。

―誠司さんが帰ってくるまでに、先にさっぱりしておこうかな!

そう思い立った美月が向かった先は、バスルームだ。

手早くシャワーを浴びて汗と化粧を落とすと、オールインワンジェルを簡単に頬に塗り込む。

長い髪をヘアクリップを使って頭のてっぺんでざっくりとまとめ上げ、コンタクトも外してメガネをかける。

体に巻きつけていたバスタオルを解き、部屋着兼パジャマとして愛用しているレギンスとTシャツに袖を通す…。

背中に大きく「HONEST DENTAL CLINIC」と書かれたメンズサイズのTシャツは、誠司が経営する歯科のスタッフ用に作られたものの余りだ。

お世辞にも色気のあるデザインとは言えないが、着心地の良さから美月も頻繁に家で着用している。

くつろぐための支度を一通り終えた美月は、ふぅ、と小さくため息をつくと、再び時計に目をやった。

午後9時。間もなく誠司が帰宅する頃だ。

都内4箇所で審美歯科を経営する凄腕歯科医の誠司は、どれほど多忙な時でも必ず9時に帰ってきて、美月と夕食を共にする。

それが、新婚当初からの夫婦のルールなのだった。

「そろそろかな…」

そう美月が声に出してみたその瞬間、玄関のドアが開く鈍い音が部屋に響いた。

「やっぱり!」

美月は弾かれたようにリビングから飛び出すと、玄関の方へと小走りで向かう。

「誠司さん、おかえりなさい!」

玄関には、背が高く優しい目をした誠司がいつものように美月の出迎えを待って佇んでいた。

「みいちゃん、ただいま」

食べても食べても太ることができないと言うスマートな体を、白いTシャツとジーンズに包んだ誠司は、美月を抱きしめその唇に軽いキスをする。

「今日もすごくいい匂いがする。夕食は何?」

「今日はね、誠司さんの大好きなコッテリ味のビーフストロガノフだよ!」

誠司はもう一度美月をぎゅっと抱きしめると、再び美月に小鳥のように軽いキスをした。

夕食のメニューを報告して、小さなキスを貰う。これも、結婚してからずっと続いている、仲睦まじい2人の習慣なのだった。


たっぷりとサワークリームを乗せたビーフストロガノフ。砕いたタコスとフライドオニオンをこれでもかと振りかけたコブサラダに、根菜を山ほど入れたチキンヌードルスープ。

「すごく美味しい。やっぱり、みいちゃんのご飯は最高だね。いつもありがとう」

自分の作った料理を、誠司は毎日心か......


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