親友の心の内を知った夜
19時。仕事をなんとか切り上げて、急いで席を立つ。
今夜は、慶應大学時代のゼミの親友と表参道で飲む予定なのだ。
『レストラン カシータ』に到着すると、店内でも抜群に目を引く美しい女が、席に着いたままひらひらと手を振っている。親友の金城凛香(きんじょう・りんか)である。
凛香は、170センチ近い長身に、針金のように細い手足を持つモデル系美人だ。
緩やかなカールのかかったロングヘアに、スッと鼻筋の通った人形のような顔をしていて、学生時代は読者モデルとして活躍していたのも納得だ。今は大手化粧品会社でバリバリ働いている。
席に着いて、しばらくお互いの近況報告に花を咲かせた後、私はおもむろに凛香に報告した。昨日、高貴からプロポーズされたことを。
瞬時に、凛香の「おめでとう」とはしゃいだ声が返ってきて、くすぐったいような照れくさいような気持ちになった。
「声をかけられたのが9か月前、付き合ったのが半年前でしょ。すごいスピード婚だよね。うらやましいな」
凛香が赤ワインのグラスをくるくると回しながら、遠い目をしている。
そう、高貴と出会ったのは、凛香に勧められて入会した六本木にあるジムだった。2人でヨガのレッスンを受けた帰りに、高貴から声をかけられたのだ。
私より3歳年上の高貴は、中肉中背の真面目な風貌で、第一印象は「可もなく不可もない男性」だった。でもその後も何度も誘われて、彼のまっすぐな情熱に心惹かれ、半年前に付き合うことを決めたのだった。
「実はさ、今だから言うけど…。高貴さんに声をかけられたとき、ちょっといいなって思ったんだよね。でも高貴さんはその時から美雪に一直線だったから、早々に諦めたよ」
コース料理がデザートに差し掛かった時、ほんのりと酔った凛香が、グラスに注がれた黄金色のデザートワインを見つめながらぽつりと呟いた。
「そうなの…?」
私は驚いて黙り込む。凛香が当時、高貴のことをそんな風に思っていたなんて、全く気が付かなかったのだ。
「高貴さん、美雪に一目ぼれだったみたい。美雪って、肌も真っ白で、目も黒目がちで大きくて、髪もツヤツヤで…。そりゃ、イチコロだよね。私は、清楚な雰囲気の美雪とは真逆だもん」
凛香はそう言って、少し自嘲気味に笑う。そしてすぐに「改めておめでとう。幸せになってね」といつもの大輪の花のような笑顔に戻って、ワイングラスを高く持ち上げた。
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