一人暮らしのマンションで起きた、恐怖の出来事
22時半。麻布十番のマンションの玄関ドアを開けると、心地よい高揚感と安堵に包まれた。私はすぐに父と母の仏壇が置いてある部屋に向かう。
「お父さん、お母さん」
部屋の中は、しんと静まり返っている。
「私、ついにプロポーズされたよ。相手はね、黒川高貴さんっていう方。仕事に一生懸命ですごく優しくて真面目な方なの。きっとお父さんとお母さんも気に入ると思うよ」
私は、手を合わせながら続けた。
「それにね…私たちは似たもの同士なの」
高貴と知り合ってすぐに、彼も小さい頃、医師だった父を亡くしているのだと聞いた。それ以来、何か運命的なものを感じていたのだ。
私は一呼吸おいて、父と母の遺影を見つめる。
「私、やっと一人じゃなくなるよ。絶対に、幸せになるね」
そう言った瞬間、見慣れた父と母の顔が、少しだけ笑った気がした。
◆
私はリビングのソファに座って、スマホを手に取った。
さっき凛香と食事したときに2人で撮った写真を、彼女がSNSに投稿している頃かもしれない。そう思って、何気なくInstagramをチェックしはじめたのだ。
ふと見ると、メッセージアイコンに通知のマークがついている。
何気なくタップした、その瞬間。
背筋が凍り、私はしばらくその場から動けなくなった。
そこには、こんなメッセージが書いてあったから。
-いますぐ、クロカワコウキとの婚約を破棄しろ
一体、どういうこと…?
このときの私は、得体の知れない黒い影が、静かに忍び寄っていることを、そして掴みかけた幸せが、音も立てずにゆっくりと崩れ落ち始めていることを、まだ知らなかった。
▶Next:12月23日 日曜更新予定
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