有馬紅子 Vol.14

「すべては仕組まれていた?」妻を捨てて若い女に走った夫の後悔と、膨らむばかりの猜疑心

深窓の令嬢が、超リッチな男と結婚。

それは社会の上澄みと呼ばれる彼らの、ありふれた結婚物語。

有馬紅子(ありま・べにこ)もそんな物語の一人として17年間幸せに暮らしてきた。

しかし突然、夫・貴秋が若い女と駆け落ち同然で家を出てしまい、紅子のプライドは消えかける。

しかし就職に成功し、新たな一歩を踏み出した紅子。初めての売り上げを上げその手段が、周囲のスタッフを魅了していく。そんなある日、紅子は、久しぶりに月城家に呼ばれることになったが、そこで手紙の謎が明かされ、夫の貴秋が、その送り主に気がついた。

「社会経験、ほぼゼロ」。有閑マダムのレールから強制的に外された女・有馬紅子のどん底からの這い上がり人生に迫る。


「有馬さん、次のミーティング、C会議室で1時間後ですからね。僕は、今決まった案件を本社と電話で話してくるんで」

そう言うと…というより、そう言いながら会議室を出て行った坂巻さん。私は、承知しました、と答えたけれど、それが彼の背中に届いたのかはわからない。

―本社勤務ってこんなに慌ただしいのね。

会議室に残された資料を片付けながら、私はそんなことを思った。

一年後に迫った、東京で行われる大回顧展のために、坂巻さんは走り回っている。私は先週からそのアシスタントとして本社勤務になった。

ベッラ・オンダの回顧展は、都内の合計3箇所の美術館を貸し切って開催されることになっていたのだけれど、問題が起こってしまったらしい。

メイン会場となるはずだった、東京でも1、2を争う大きさの美術館の館長が、突然の人事でかわってしまった。

そのせいで、ほぼ合意に至っていた会場のレイアウトやデザインに加え、貸し切りの期間と料金などで折り合いがつかなくなってしまい、決裂の危機にあるのだという。

その会場にはブランド200年の歴史の中で、世界中の富豪たちが購入し、各国に散らばった30体以上のシャンデリアが、一堂に会することになっていた。

ホールだけではなく、大階段などの展示にも趣向を凝らしている。その設計やデザインに合わせたグッズの制作も始まっていたため、それが全くの白紙に戻るのはどうしても避けたい。

そこで坂巻さんが本社に掛け合い、チーフデザイナーにも納得のいくレベルの妥協を求めつつ、美術館との合意点を探っているのだという。

「坂巻さんは、ネゴシエイターとしても優秀な人なんですよ。イタリア語も堪能で、本社デザイナーの信頼も厚いし。だから結果的に彼を頼る人が多くて、こういうトラブルが起こると、てんてこ舞いになっちゃうんですよね」

私が本社で働き始めてから、一度だけ様子を見にきてくれた加藤さんがそう教えてくれたけれど、坂巻さんの働きぶりには、本当に尊敬の念が湧き上がってくる。

本社勤務は、私にとっては突然の辞令だった。

1週間前に突然、小河さんに呼び出され、こう言われたのだ。

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