ポイズン・マザー Vol.9

「“普通”の結婚をしないと、世間は許してくれない…」格下の花嫁から嘲笑われた、32歳女の悲痛な叫び

「親を大事にしろ」

人はそう、口を酸っぱくして言うけれど。
生まれてくる親を、子は選べない。

名誉や金にすがった親の“自己愛”の犠牲となった、上流階級の子どもたち。

代々続く地方開業医の娘として生まれた七海も、そのうちの一人であった。

父の死をきっかけに、母は本性をあらわした。そんな母との関係に苦悩する女の、“幸せをかけた闘い”が幕をあけるー。


父の死後、少しずつ様子がおかしくなっていく七海の母・真由美。一方、七海はベンチャー企業を経営する諒太(29)と結婚前提の同棲をスタートさせるが、母、そして姉の沙耶から結婚を反対されてしまう。

誰にも母の異常性を理解してもらえず苦しむが、七海はついに母の承諾を得ることを諦め、自分たちの意思で結婚することを決意した。


「えっ、ご新婦のご家族は、結婚式に参列されないんですかぁ?」

目の前に座る20代半ばの女性が、ばちばちと瞬きしながら、驚いた表情で私を見つめている。

「はい、結婚式というよりは1,5次会のような感じにして、ゲストも友人中心にしようと考えています」

私が淡々とした調子で答えると、その女性は、「ああ、そういうことですかぁ!」と両手をぱちんと打って、安心したように微笑んだ。

彼女は、私の担当ウエディングプランナーだ。今日、私と諒太は、結婚式の打ち合わせのために銀座にあるウエディングサロンを訪れていた。

「では、ご親族のみでの挙式を別に済ませるということでしょうか?」

今度は私の代わりに諒太が「いいえ」と答えて首を横にふると、プランナーは途端に怪訝な表情を浮かべる。

「…普通は、ご友人中心のパーティーをするお客様って、親族のみのお式を別で挙げるケースがほとんどですけど、珍しいですねぇ」

彼女は若々しく、やる気に満ち溢れたフレッシュさを全身から放っていた。しかしどこか無遠慮な物言いが鼻に付くのか、諒太はさっきから少しムッとした顔をしている。

その後もプランナーは根掘り葉掘り、色々尋ねた後で、資料をプリントアウトしに席をたって奥へ消えてしまった。諒太がすかさず小声で呟く。

「親を結婚式に呼べない事情がある人なんていくらだっていると思うけど…彼女、少し無神経なのかなあ。ウエディングプランナーなのにね」

「まあ、悪気は無いんだろうね」

私は肩をすくめた。そして、私も彼女くらいの年齢のときは、まさか自分が親を呼ばない結婚式を挙げるなんて、想像もしていなかったなあ、なんて考える。

プランナーが席に戻ってきたあとは、提携ドレスショップの案内をしてくれたが、その際も彼女は無邪気な笑顔を浮かべながら私を見つめる。

「七海さん、美人でスタイルが良いから、ウエディングドレス姿も素敵でしょうねぇ!やっぱりお母様もお呼びしたらいいのに…。絶対見たいと思いますよぉ」

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