ポイズン・マザー Vol.7

「結婚したいなら、土下座でもしたら?」姉から妹への異常な愛情が、憎悪に変わるとき

「親を大事にしろ」

人はそう、口を酸っぱくして言うけれど。
生まれてくる親を、子は選べない。

名誉や金にすがった親の“自己愛”の犠牲となった、上流階級の子どもたち。

代々続く地方開業医の娘として生まれた七海(31)も、そのうちの一人であった。

父の死をきっかけに、母は本性をあらわした。そんな母との関係に苦悩する女の、“幸せをかけた闘い”が幕をあけるー。


父の死後、少しずつ様子がおかしくなっていく七海の母・真由美。一方、七海はベンチャー企業を経営する諒太(29)と結婚前提の同棲をスタートさせるが、母から結婚を反対されてしまう。

そして、母と結託する姉・沙耶の本心は?


「沙耶ちゃんは、パパとママの希望だわ」

母が呪文のようにその言葉を口にするようになったのは、一体いつからだっただろうか。

確かそれは、4つ歳の離れた妹・七海が小学校に上がってからだったと思う。毎回のように満点のテストを持って帰ってくる七海を、両親が愛しそうに見つめるようになった。

それで私は、咄嗟に宣言したのだ。

「パパ、ママ。沙耶ね、将来はパパみたいなお医者さんになるんだ」

その日以来、私は「桐谷医院」の後継として、両親の期待を一身に背負うようになった。同時に、学校のテストでは1点も落とすことを許されず、学期末の通知表は絶対にオールA、学校生活でも完璧な優等生であることを余儀なくされた。

でも、優等生でいつづけることは、決して容易ではない。

テストで90点をとってしまったときは、「本当は100点だったけれど学校でテストがなくなった」と母に嘘をついた。宿題を家に忘れてしまったときは、教師に叱られることを恐れ、「提出したのに誰かに盗まれたのだ」と言い張ったこともある。

そうして完璧な小学生を演じ続けた甲斐あって、家の中では常に両親に大切にされてきた。褒められるのはいつも私で、叱られるのは七海の役目。

だけど、七海はそれでも決して不満を口にすることはなかった。

「お姉ちゃんは本当に頭がいいから、絶対にお医者さんになれるね」
「お姉ちゃん、お医者さんになって、たくさんの患者さんを治すんだよね」

そんなことを言いながら、瞳をキラキラを輝かせて私を見つめる小さな妹を、心底可愛いと思った。

そして当時の私は、両親に誓った“後継になる”という約束が、まさか実現できないだなんてほんの少しも疑っていなかったのだ。

【ポイズン・マザー】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo