ノリオとジュリエット Vol.10

京都の名家を捨てたご令嬢と、束の間の蜜月を過ごすも…。愛に溺れた庶民男に迫る、非情な現実

ゲーム機器メーカーの京都本社に勤める一ツ橋紀夫(ひとつばし・のりお)は正真正銘の庶民。

“普通”で平凡な日々を送る紀夫が出会った美女・萬田樹里(まんだ・じゅり)は、なんと全国に名を轟かせる老舗和菓子屋のひとり娘。

距離を縮めていくふたりだが、偶然にも紀夫が3年前に別れた元カノ・一二三薫と再会

実は恋人に裏切られたばかりだった薫は「私とやり直そう」などと言いだす

さらに、紀夫と樹里を悲劇が襲う。なんと、樹里の許嫁・貴志にすべてを知られてしまっていた。貴志は紀夫の家にやってきて「手切れ金500万で樹里と別れてほしい」と迫る

一旦は身を引く紀夫だったが、貴志の裏の顔を知り考えを改める。そして家を出てきたという樹里を部屋に入れるのだった。


ご令嬢との、蜜月の日々


「ノリちゃん。今夜、何食べたい?」

決して広くない玄関に、樹里が見送りにくる。

「ノリちゃん」と呼ばれるその響きがくすぐったくて、紀夫は照れを隠すように急いで靴を履いた。これまでずっと樹里は「紀夫さん」と“さん付け”を崩さなかったが、昨夜ふたりで新しい呼び名を決めたのだ。

「何って…樹里、料理できるん?」

からかい半分、本気半分でそう尋ねると、樹里は「当たり前やわ」と頬を膨らませた。

「ノリちゃんの好きそうな料理、作って待ってるね」

彼女はそう言って紀夫の手を取ると、名残惜しそうな視線を向ける。その上目にぐっと来て、紀夫は樹里を抱きしめ、唇を奪った。

すべてが新鮮で、甘く、そして刹那的。

長くは続かない。

それをお互いにわかっていて、しかし敢えて口に出さない。

「愛に溺れる」という感覚を、紀夫はこの時に初めて知った気がした。

樹里が家を出た夜から、ふたりはずっと一緒にいる。一人暮らし用の部屋でも手狭が気にならないほど、身を寄せ合って、抱き合って日々を過ごしていた。

けれども当然、現実からは逃れられないのだ。

【ノリオとジュリエット】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo