ノリオとジュリエット Vol.9

金より愛。京都・老舗和菓子屋のご令嬢が、愛する庶民男のためにすべてを捨てた夜

その一件があってから、紀夫は樹里に関する記憶を抹消することに力を注いで日々を過ごした。

“彼女が許嫁を捨てて紀夫を選ぶなんてこと、ありえへんよ”
“樹里とは金輪際、会わないでもらいたい”

吐き捨てるようにして言った薫の、歪んだ表情。ほとんど無表情のまま冷淡に動いた、百瀬貴志の薄い唇。

…そして、自分をまっすぐに好きだと言った、樹里の柔らかな感触。

ふとした瞬間に蘇るそれらの記憶は紀夫を息苦しくさせ、ともすると日常生活が立ち行かなくなってしまう。

だからとにかく考えないよう思い出さないよう、会社と家を往復する毎日に没頭し、樹里には一度も連絡しなかった。

しかしそれからしばらくして、紀夫はそんな自分の行動が間違っていたことを思い知ることとなる。


薫を口説いている相手


「それじゃ…私の新しいチャレンジと京都出戻りに、かんぱーい」

御所南にある人気フレンチ『リョウリヤ ステファン パンテル』で、薫はいたずらっぽい笑顔を見せた。

薫は1週間ほど前に烏丸御池の賃貸マンションへの引っ越しを完了し、今日はさっそく新しい仕事(京都ローカル番組でのア......


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