2018.08.13
続・二子玉川の妻たちは Vol.2本物は、主張せずとも認められる
“商品が売れました”
スマホ画面に表示されたポップアップを、サヤは思わず二度見した。この通知を見るのは2ヶ月…いや、3ヶ月ぶりだろうか。
イスラエルから輸入した死海の塩にオーガニック精油で贅沢に香りづけしたバスソルト“Real Aroma”は、サヤこだわりの逸品。
オーストラリアのオーガニック認定も取得して個人のネットショップで販売をしているが、正直なところ…相も変わらず、まったく売れていない。
それでも商品の質の高さは、(数少ない)顧客のリピート率が証明してくれている。
−知ってさえくれれば。そうすれば必ず気に入ってもらえるのに。
じれったいが、しかしサヤは商品への自負や自信はあれど、宣伝する術を知らない。
原材料にこだわった結果、“Real Aroma”の利益率は一般的なそれと比較してかなり低い。無駄に広告費をかけることができない以上、まずは自らの手で知名度を上げるほかないのだが、サヤにはどうしてもそれができないのだ。
飲食事業で財を成した父方の祖父のおかげで、サヤは田園調布三丁目の豪邸で何不自由なく暮らしている。幼稚園から高校までをカトリック系のお嬢様学校で過ごし、日本女子大学を卒業。
その出自のおかげで、フライトはいつもファーストクラスであることや、身につけている服やバッグが高級品であることをあえて声高に叫ばずとも、周囲はいつもサヤに一目置いていた。
それゆえ、自身の持てるものをこれでもかと活用するマリや、どんな手を使ってでも前に出てやろうとする由美のような真似は絶対にしたくないし、する必要がないと思っている。
−本物は、主張せずとも認められる−
その主義主張を、プライベートのみならず商売においても変えなかった結果が、3ヶ月に1つの売上という現状なのであった。
由美からの救いの手
「サヤさん、お元気?」
サヤがいそいそと、しばらくぶりに売れた商品の発送作業をしていると、他ならぬ由美から電話がかかってきて驚いた。
突然の、久しぶりすぎる連絡。
由美がポーセラーツサロンをクローズしたことも、サヤは風の噂で知っただけ。考えてみれば、直接話すのは数年ぶりだ。
聞けば彼女も現在、自身でネットショップを運営しているのだという。
ほとんどはオリジナル企画商品らしいが、中には仕入れ商品もあり、今回、新たにバスソルトの取り扱いを検討しているのだと彼女は言った。
「ぜひ、サヤさんのバスソルトを扱いたいの。あんなに素晴らしい品質のものって、他にはないもの!」
由美は“Real Aroma”をべた褒めしたあと、電話の向こうで声を潜める。
「ほら、ミカちゃんもバスソルト作ってるんだけど…あそこのはオーガニック認定も取っていないし。なんていうか、それなりのモノじゃない?
それに比べてサヤちゃんのこだわりとセンス、本当に尊敬する。よかったらぜひ一度、打ち合わせさせてくれないかしら?」
“ミカちゃん”と言うのは先述の、由美が以前、懸命に取り入っていた有名読者モデルである。
ミカといえば“Real Aroma”の紛い物のような二流のバスソルトを販売したり、協会などという謎団体を設立したりしていたが...そういえば彼女は今、どうしているだろうか。
忌々しい記憶にしばし気を取られたが、そのあと耳に流れ込んだ由美の言葉は、サヤの頭をすっきりと冴え渡らせた。
「実はね、全国に複数展開している高級リゾートホテルのオーナーに知り合いがいて。
すでにうちの商品をいくつか卸しているのだけど、バスソルトを客室用に大量発注したいっていう話があるの!」
本物で、知ってもらえれば売れるって思ってるなら、サンプルでも置いてくればいいじゃん。
何もせずとも本物は売れるって言ったって、商品を知ってもらう手段をつくらないとどうにもならない。使えるものを最大限に使おうと、儲けようとやってる人を軽蔑してる感じで腹立つな笑
あと、セルフマインドコントロールが気になる。「売れなくてもいい」「お金なんか要らない」って言ってたら売れないし儲からないよ。ほら、「思考は現実化する」ってやつ。
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