ノリオとジュリエット Vol.8

「手切れ金500万で、別れてほしい」凡庸なサラリーマンを挑発する、招かれざる客の正体

ゲーム機器メーカーの京都本社に勤める一ツ橋紀夫(ひとつばし・のりお)は正真正銘の庶民。

“普通”で平凡な日々を送る紀夫が出会った美女・萬田樹里(まんだ・じゅり)は、なんと全国に名を轟かせる老舗和菓子屋のひとり娘。

距離を縮めていくふたりは紀夫の部屋で一夜を過ごすが、偶然にも紀夫が3年前に別れた元カノ・一二三薫と再会

すると薫は紀夫に「樹里はやめた方がいい」と忠告し、「私とやり直そう」などと言いだす

紀夫は樹里と淡路島へ一泊旅行に出かけるが、京都に戻った翌日に樹里から「しばらく会えなくなった」と連絡が。なんと、樹里の許嫁・貴志にすべて知られてしまっていたのだ。


元どおりの生活


うだるような暑さの中で、目が覚めた。

枕元のスマホに手を伸ばすと、時刻は早くも11時過ぎ。

堪えかねる暑さに、切れてしまったエアコンのスイッチを入れ直すと、紀夫は再びベッドに寝転がる。起き上がる気力が湧いてこないのだ。

予定のない週末は、久しぶりだった。

−しばらく会えなくなってしまったの−

樹里から届いた突然のLINEは、紀夫の毎日を再び“普通”へと引き戻した。

初夏の鴨川で彼女に出会ってからまだ3ヶ月も経っていない。

しかしその間ほぼ毎日連絡を取り合い、週末のたびに密な時間を過ごしていたものだから、心にぽっかりと空いた空洞を無視できなかった。

突然、甘く華やいだ夢から醒めてしまったような脱力感。

−別に、元に戻っただけだ。一ツ橋紀夫らしい、平凡な人生に。

力なく、自分に言い聞かせるよう心の中で呟いていたら、ふいにスマホが鳴り出した。

「あ、紀夫?暇ならちょっと出てきてよ。報告があるの」

「はい」と応答する隙もなく、弾んだ声で紀夫を誘う女の声。…そんなことをする相手は、一人しかいない。

「薫か。お前、滋賀にいるんと違ったん」

そう問いかけるも、薫は案の定紀夫の質問に答えることはなく、一方的に「じゃ、四条に着いたら教えてや」と言い残し電話を切ってしまうのだった。

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