総合職女子との、広がる格差
“日曜のランチ、ハイアットでいい?”
社会人になって半年ほど経った、ある日のこと。
大学時代の同級生・梨奈から届いたLINEに、私は目を丸くした。
学生時代の私たちにとってランチといえば、単価1,000円ちょっとのカフェランチが常だった。それがいきなり、「ハイアットでいい?」に変わるとは。
−さすがは、代理店女子…!
私がそんなことを考えている間に、もう一人の同級生・聡子からも返信が届く。
“いいね!『フレンチキッチン』にする?”
迷いなく快諾する聡子もまた、外資系投資銀行のフロントで働くバリキャリ女子だ。
私は、大卒初任給トップクラスの高給を稼ぐ二人のやりとりに、多少気後れしながらも”OK”のスタンプを返しておいた。
「久しぶりー!」
『フレンチキッチン』に現れた代理店女子・梨奈は、サングラスを外しながら颯爽と席に着いた。
裾がアシンメトリーになったトップスに、スキニーデニムがよく似合う。六本木で一人暮らしを始めた彼女にとってここはご近所だからだろう、バッグはセリーヌのチェーンウォレットだけだ。
学生時代からオシャレ番長と評されていた梨奈だが、代理店入社後ますます華やかになり、輝きを増しているのは目にも明らかだった。
「梨奈、ますます綺麗になってる。素敵ね」
私は素直にそう言って隣に座る聡子を振り返り、ハタ、と気がついた。
笑顔で頷き返す聡子の耳には、ヴィンテージアルハンブラの見慣れぬピアスが光っていたのだ。オニキスのシックな輝きが、クールビューティーな彼女に、さらなる高級感を付与している。
よく見れば彼女が着ている一見シンプルなブラックワンピースも、胸元のカットやウェストラインの美しさが、量販されているそれとは全く違っていた。
「どう?仕事は。私の方はもうさっそく、全然家に帰れなくて…」
「私もよ!今日はなんとか休めたけど、昨日は一日中撮影でスタジオだった」
梨奈と聡子は再会するや否や、どれだけ自分の仕事が忙しく充実しているかを我先にと語りだした。
私は自分とまるで別次元の話に、ただただ目を丸くしながら頷くほかない。
たった半年の間に、同じ慶大生だったはずの二人は、すっかりキャリアウーマンへと変貌を遂げていた。
そのことは確かに、私に大きな衝撃を与えた。しかしだからと言って、別に憧れはしない。
こうなることくらい、わかっていたのだ。
それでも私は私の考えがあって、あえて一般職を選んだのだから。
「ねぇ、シバユカはどうして一般職に決めちゃったの?」
完全に放置プレイだった私を思い出したのだろう、梨奈がふいに私に尋ねた。
「それ、私も聞きたかった。シバユカなら、絶対に総合職だって受かったのに」
聡子も、控え目ながら、しかし探るような目で私を見つめる。
「そんな…大それた理由なんてないよ。ただ私には梨奈や聡子みたいにバリバリ働く力なんてないって思っただけ」
謙遜する私の言葉に、二人は口々に「勿体ない」と言い合っている。
しかし私にしてみれば、たとえ高給を得られたとしても、貴重な20代を仕事で忙殺されてしまう方が余程、勿体なく思えてしまうのだ。
この記事へのコメント
原作の期待を裏切らず面白くなりますように!