出世もキャリアも、私には必要ない
「確認しますが…本当にうちの“一般職”でいいんですか?」
いかにも人事部らしい、縁なしメガネをかけた誠実そうな男性が、私に怪訝な目を向けた。
男の隣に座る妙齢の女性社員も、物言いたげな表情で私を見つめている。
それは、丸の内に本社を構える、大手不動産会社の採用面接での出来事。
あの時のことを思い出すと、私は今でもちょっと可笑しくなってしまう。
彼らの心の中は、きっと「?」でいっぱいだったに違いない。
都内女子校出身、慶應義塾大学経済学部卒。浪人も留年もなし。総合職での採用基準を優に満たしているのに、どうしてわざわざ業務の幅も狭く、給与ベースの低い一般職を?と。
世間からは、理解してもらえないのかもしれない。
けれど私には私なりの人生設計があって、そこには総合職とか、キャリアとか出世とか、そういう類は全く必要ないのだから仕方ない。
「御社の一般職が、第一希望です」
迷いなく言い切る私に、面接官二人は戸惑ったように顔を見合わせる。
その反応に、「もしかして落とされる…?」と一瞬不安がよぎったが、そのあとの選考は問題なくトントン拍子に進み、無事に内定を獲得することができてホッとした。
こうして当時22歳の私は自ら望んで、東京婚活市場随一の戦闘力を誇る、丸の内OLとなったのだ。
この記事へのコメント
原作の期待を裏切らず面白くなりますように!