2018.01.28
パーフェクト・カップル Vol.1
舌先に葉巻の苦み。少しバニラのような香りもした気がする。私が飲んだマルガリータの甘さも彼に伝わってるのだろうか。
そんなことを考えていると、隼人の唇が耳元で動いた。
「キスできたじゃん、俺ら。」
聞きなれたはずの声が、妙に色っぽく聞こえる。
隼人が私の前で初めて「ずるい男」になった。早くなった動悸が恥ずかしくて、視線を泳がせると、彼の肩ごしに灰皿が目に入る。
葉巻の先端から立ち上る、か細く弱い煙。まるでスローモーションのように、静かに灰が落ちて舞う。
―いつか…後悔するかな…。
でも、今はこれでいい。自分にそう言い聞かせながら、隼人の肩に顔を埋めた。
◆
「じゃあ今日、翔太のお迎えよろしくね。」
「了解。怜子の帰りは何時?」
「今日はロケ、遅くなっちゃうな。夕食、冷蔵庫の中に作り置きしてあるから、適当に温めて食べてくれると助かるわ。」
午前3時。夫になった隼人は、平日毎朝この時間に出勤していく。今や朝のニュースのメインキャスターだ。そんな彼を見送った後、玄関に置いた写真たてが目に入る。
ウェディングドレスの私と隼人。この写真を撮ったのももう6年前で、私達は35歳になった。
私達は、あのキスの翌年にスイスの古城で式を挙げた。挙式の後のパーティには沢山の取材が入り、私たちカップルは一躍日本中の注目を集める夫婦になった。
結婚の翌年に生まれた息子の翔太は今年4歳になり、お受験の準備を始めている。
悔しさと、プライド、そして打算で結婚した私達ではあったけれど、結婚生活は驚く程上手く行った。
入籍の前日には「もし子供ができないとか、どちらかに好きな人ができたとかした時には、お互いに笑って別れよう」なんてことさえ話していたのに。
翔太が生まれ、守るべき存在が私達の絆を強くしたし、「結婚と出産」は、お互いのキャリアにも良い影響を与えた。
私は「雑誌やインスタで着たものが飛ぶように売れる」という、ママモデルとしてトップの地位を確立。
イクメンとしての肩書が足された隼人は、理想のアナウンサーの殿堂入り。最近では「フリーに転身」のウワサが流れる程、国民的な人気者になった。
常に、週刊誌に追われる私達を「パーフェクト・カップル」と呼ぶ人さえいる。
出産以来、私達に男女の関係は無い。けれど出会って15年以上経つ親友への信頼は絶対で、私は十分幸せだった。
そう、この日までは。
私もロケ出発まであと1時間。シャワーを浴びようと思った時、携帯が鳴った。隼人が忘れ物をしたのかと画面を見ると、私の所属事務所の社長からだった。
「もしもし」
出発時間の変更だろうか、と思いながら電話に出ると、いつもは明るい社長が出発前にごめんね、と沈んだ声で言って続けた。
「落ち着いて聞いてね。ご主人の記事が週刊誌に出るかも。女の子と撮られたみたい。」
その後、自分がどう返事したのか、よく覚えていない。そして…。
私達夫婦は、この時、まだ知らなかったのだ。常に「注目を集める存在」でいることの…本当の怖さ、を。
▶Next:2月4日 日曜更新予定
パーフェクト・カップルに訪れた最初の試練。そして偽りの生活が始まっていく。
【パーフェクト・カップル】の記事一覧
2019.01.02
Vol.27
2018年ヒット小説総集編:「パーフェクト・カップル」(全話)
2018.07.08
Vol.26
敏腕芸能マネージャーが語る、人気アナウンサーのスキャンダルの裏側と、最後の秘密
2018.07.01
Vol.25
全てを失うのは、誰?清純な悪女vs人気アナウンサーの戦いに、世間が下した非情なジャッジ
2018.07.01
Vol.24
パーフェクト・カップル 番外編:生粋のお嬢様が、人気アナを陥れるほどの悪女になるまでと、その破滅
2018.06.30
Vol.23
「偽りの夫婦」が迎える結末は?いよいよ明日で最終話!「パーフェクト・カップル」総集編
2018.06.24
Vol.22
「清く正しく」を続けることができなかった、人気アナウンサーの転落劇
2018.06.17
Vol.21
「この日を一生忘れない」。スキャンダルにまみれた人気アナウンサーの、運命の1日
2018.06.10
Vol.20
「駆け引きだったのか?」人気アナが選択を迫られた、敏腕芸能マネージャーからの2つの提案
2018.06.03
Vol.19
「もっと際どい写真も、撮りました」。過去のプライベート写真流出の危機に、迫られる究極の選択
2018.05.27
Vol.18
「どこからが嘘で、演技だった?」婚約破棄された恋人に、ずっと聞きたかった1つの疑問
おすすめ記事
2020.10.07
“一般女性”の告白
“一般女性”の告白:イケメン俳優の恋人となる女の正体とは?彼女たちが仕掛ける驚きの罠
2016.06.29
口説ける男
口説ける男:別れ際が重要。女性が物足りないくらいの駆け引きで恋が始まる!?
2022.06.05
港区夫妻のトラブル事例
港区夫妻のトラブル事例:離婚で8,000万の財産分与を主張する妻が、夫の“ある策略”にハマり…
2019.08.31
オトナの恋愛論~宿題編~
最初は、毎晩盛り上がっていたのにナゼ?女が男の前で、絶対してはいけなかったこととは
2021.03.08
ヤドカリ女子
ヤドカリ女子:仕事も男も手玉に取る28歳女。彼女が決して自宅に帰らない理由とは
2020.09.24
それでも、私は東京で消耗する
“抱かれたい男”から、突然の連絡がきた30歳女。男が興味を持ったワケ
2022.07.31
人生、こんなハズじゃなかった。~ハイスペの憂鬱~
美人だけが招待される謎のLINEグループ。そこで共有される秘密の情報とは…
2020.09.07
モラトリアムの女たち
モラトリアムの女たち:家事に協力的な夫と、かわいい娘。それでも女が満たされないワケ
2017.08.04
港区遊び方委員会
港区遊び方委員会:土曜の朝、何時に起きる?港区で「化石」扱いされる女の特徴
2019.11.01
Love Letters
既婚上司と社内で交わすアイコンタクト。彼が会社PCに残した、秘密のメールの中身
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント