2018.01.29
“ゆとり”のトリセツ Vol.1上なんか見ても疲れるだけ
じゅわ...と口の中に広がるひき肉の旨味とキャベツの甘味に瑞希は目を細めた。
「はぁ...ほんっとうに美味しい。人類は餃子以外のものを食べる必要があるのか立ち止まって考えちゃうぐらい、美味しい」
「大げさだなあ...まあ、美味しいけど」
40代半ばほどの大柄な男が、向かいで呆れながらハイボールを啜る。
土曜の夜、広尾商店街の『タイガー餃子軒』は家族連れから若いカップルまで、思い思いに週末を楽しむ人々で賑わっていた。
ここひと月ほど、瑞希はこの店に通い詰めている。
向かいに座る水野とは、瑞希の上司、吉田の紹介で半年ほど前に知り合った。
紹介と言っても、上司と水野が西麻布『こんぶや』で飲んでいるところに偶然出くわし、そのまま3人でおでんを囲んだのがきっかけだ。
上司曰く、水野は「ヘッジファンド時代に死ぬほど稼いだからもう働かなくて良い」らしく、確かに彼はハワイの別荘と東京の家(複数)を行ったり来たりする以外は、日中もNetflixを見るぐらいしかやることが無いと言う。
「上野さん、ほっぺにラー油飛んでるよ」
「あれっここ?ありがとうございますー」
おしぼりでごしごしと頬を拭く瑞希を見て、水野は苦笑いした。
「年頃の女子が土曜の夜にすっぴんで餃子って、世も末だよなぁ...っていうか流石に毎週来てて飽きない?」
「やっだなぁ水野さん、もはや飽きる飽きないっていう次元にこの餃子は無いんです。
野菜、たんぱく質、炭水化物という、人類が必要とする栄養素を完璧なバランスで内包する、完全栄養食なんですから」
よく分からない論理をご機嫌で打ち放ち、瑞希はそのふっくらと形の良い唇の端をにっこりと引き上げた。
◆
水野とはほぼ週1のペースで飲みに出るが、場所はいつもここ、『タイガー餃子軒』だ。
そもそも瑞希は、外食にあまり興味が無い。
会社で上司に連れ出されるときは、客単価2万円を超えるステーキから鮨、フレンチにイタリアンと全方位好き嫌いなく満喫するが、プライベートで自ら「ここに行きたい」という欲求は無い。
瑞希の収入は、一般的な20代のそれを大きく上回るが、生活は至ってシンプルだ。
趣味と言える趣味も無く、休日はUberEatsで出前を取り、一日中家にこもってNetflixを見て過ごす。
時々気が向いたときに、UberEatsで食べられないおでんや焼き立ての餃子を食べに、ふらりと近所の店に出かける程度だ。
「まるでリタイアした俺と同じじゃないか」と以前水野に笑われたが、実際、そういう行動パターンが一致しなければ瑞希が人と出かけることはほとんど無い。
―やりたいことなんて無い、ただのんびり穏やかに、なるべく苦労しないで人生過ごしたい。
高学歴・高収入・容姿端麗と、誰もが羨むスペックを備えていても尚、彼女は人生にとことん後ろ向きだ。
ふと目線を感じ、顔を上げると水野と目が合った。
その目の奥に何か言いたげな雰囲気を感じたが、瑞希は気付かなかったふりをして手元のビールに視線を落とした。
▶NEXT:2月5日 月曜更新予定
淡白にもホドがある!?ゆとり世代の恋愛事情。
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
食べたい物を食べ、着たいものを着て、地味ーに遊ぶ。とても共感できる。
【“ゆとり”のトリセツ】の記事一覧
2018.04.02
Vol.11
“ゆとり”のトリセツ:結局、“世代”なんて関係ない。幸せになるために必要な、たった一つのこと。
2018.04.01
Vol.10
いよいよ明日で最終話!「“ゆとり”のトリセツ」全話総集編
2018.03.26
Vol.9
“ゆとり”のトリセツ:他人にどう思われても関係ない。結局熱くなれないのが、ゆとり世代。
2018.03.19
Vol.8
“ゆとり”のトリセツ:価値観の押し付け、ヤメテ下さい。仕事はフェアに評価して欲しい、ゆとりの主張
2018.03.12
Vol.7
“ゆとり”のトリセツ:いくら金を稼いでも心は満たされない。成功したはずの男が港区で感じる孤独
2018.03.05
Vol.6
“ゆとり”のトリセツ:何事も効率が最優先。冷めきったゆとりの心を刺した、熱き起業家の言葉
2018.02.26
Vol.5
“ゆとり”のトリセツ:「それなりの努力でそこそこ幸せ」じゃダメなの?成功者の昔話に感じる、ゆとりのジレンマ
2018.02.19
Vol.4
“ゆとり”のトリセツ:初デートでまさかの割り勘。男女平等の時代に“男気”は不要なのか?
2018.02.12
Vol.3
“ゆとり”のトリセツ:優先すべきは“費用対効果”。愛想笑いの下にある、ゆとり世代の本音
2018.02.05
Vol.2
“ゆとり”のトリセツ:ほぼ彼氏、略して「ほぼカレ」とは...?淡白すぎる、ゆとりの恋愛観
おすすめ記事
2017.03.05
メニューによります
メニューによります:男の誘いを、メニューで査定する女。今宵の武器は“生ハムの王様”
- PR
2024.04.16
先輩美女と4回目のデート中。「今夜こそ家に誘いたい…!」と狙う男を勝利に導いたあるアイテムとは
2017.03.19
メニューによります
メニューによります:女が恍惚とする、最強の美食。バブル崩壊を生き残った紳士の甘い誘い
2016.12.18
薔薇色のバツイチ
薔薇色のバツイチ:32歳バツイチ女、東京恋愛市場で嬉しい悲鳴を上げることに?!
2017.06.22
東京マザー
東京マザー:妻から「離婚」を告げられた夜。家庭円満だと思っていたのは、夫だけ
2017.01.01
薔薇色のバツイチ
薔薇色のバツイチ:「離婚するの待ってたよ」。昔の男に囁かれ、バツイチ女、天にも昇る?
2018.07.10
恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜
女の幸せは、愛されること。左手薬指に光るダイヤを見て感じた“達成感”という名の快感
2018.02.03
デートの答えあわせ【Q】
4回もデートしたのに。約束LINEで「全日程NG」を男が食らったのはナゼ?デートの答えあわせ【Q】
2015.02.12
レストランで恋のシーソーゲーム(WOMAN)
ファーストデート。男性のデューデリジェンスは慎重に。
2016.11.27
結婚ゴールの真実
結婚ゴールの真実:愛され妻の秘密。結婚願望ゼロ男を落とすため、プレゼン資料まで作る女
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.12
三人の男たち~夫婦の問題~
広尾に住む、共働きエリート夫婦。新婚当初から寝室を別にしたけれど、ある問題が…
2024.04.14
Editor's Choice~life style~
無難になりがちな通勤着を格上げする、大手百貨店のコンシェルジュサービス2選
2024.04.09
Editor's Choice~fashion~
ディオールの新作ローファーに、彼女も思わず目を留める。春の大人デートは1点豪華主義でキメる!
2024.04.11
Editor's Choice~beauty & wellness~
「ZARA」から新しくヘアブランドが誕生!髪のお悩みを解決してくれる、優秀アイテム全6品をチェック
2024.04.12
大人の週末ToDoリスト
東京にいながら世界のグルメを堪能!ベルギービールのイベント、チキンがテーマのフランス映画…今週末のイベント3選
この記事へのコメント